視点

スマートフォンで伝統文化をよみがえらせる

2013/06/06 16:41

週刊BCN 2013年06月03日vol.1483掲載

 長良川といえば鵜飼が有名だが、その川に沿って昔から栄えてきたいろいろな観光資源を掘り起こして岐阜の本物に出会える小さな旅を数多く企画し、地元の街歩き体験ツアーを提供する人たちがいる。その催しは「長良川おんぱく」で、5月初旬から中旬にかけて春のイベントを開催している。10人程度のグループで地元の人と一緒に街を歩き回る「老舗和菓子屋で鮎菓子&ねり切り教室」や「江戸時代からの樽が眠る醤油蔵めぐり&試食ツアー」など、とても人気がある。

 なかには、「長良川舟遊び」という粋な企画もある。伝統の鵜飼と岐阜の花街文化が融合した舟遊びの文化で、舟の上で芸妓・舞妓とともに、ひと時の夢心地の世界に遊ぶ趣向である。とはいえ、この種の粋な芸を楽しむには、戦後生まれの身には遊びの素養が継承されていないので、お手上げである。そこで岐阜の座敷歌を視聴できるスマートフォンアプリを開発する話が持ち上がって、岐阜ソフトピアのベンチャー企業のグラスプ・アット・ジ・エアーがデザイン会社のオルガンデザイン室と協力して「岐阜の座敷歌」を開発することとなった。舟遊びにこのスマートフォンさえ持ち込めば、芸妓さんの所作の意味がわかり、一緒に遊ぶこともできて、夢心地が高まるようだ。

 スマートフォンのような新しいツールを使って、深みのある伝統文化を復活させ、かつて地場産業とともに栄えた地域文化の気品と粋な世界をこれからの人に見せることはとても大切である。さらにネットワーク環境を生かした文化再生の視点に立って、地元の地域資産の魅力を再発見し、地域文化の価値を再編成することも大事だろう。

 ここには、鑑賞して買物するというような大型の消費型観光とは異なるものがある。地域住民とのコミュニケーションを楽しみながら、そこでの親密な間柄に、外の人にも地元愛着を求める仕組みが意図されている。だからこそ、ネットワーク環境とスマートフォンアプリの介在は不可欠となり、ちょっとしたつくり込みによって、伝統文化が最先端でおしゃれな感覚なものに変身する。しかもその感覚が地元の人たちと外部の参加者にシェアされることで、新しい地域文化の資産形成が可能になると期待される。最初は単なる座敷歌のアプリだとしても、それが連鎖していくことで、従来の観光とは異質でユニークな、伝統の重みを軽やかに包んだ文化やデザイン主導の小さな成長戦略に変貌することを願っている。
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