視点

地域活性化に欠かせない要素とは

2010/11/04 16:41

週刊BCN 2010年11月01日vol.1356掲載

 「iPhoneのアプリ開発なら、今は岐阜県だね」といううれしい噂があるようだ。その真偽はともかく、岐阜県の取り組みとして、そこに力を注いでいることは確かである。iPhone塾というアプリ開発の研修会を開き、そこでは成果が出るまで学習する仕組みをつくり、研修としての精度を高めている。さらにモバイルカフェというアプリ開発を語る場をつくり、関心をもつ人たちが近隣の名古屋や三重県からも集まって、刺激的なコミュニケーションが生まれている。

 実は、この事業には緊急雇用対策の費用を充てている。岐阜県の知恵もたいしたものだ。ただし、県が資金の提供をすれば、それでいいというわけではない。重要なのは、乏しい資金の効果を10倍に膨らますために、県の担当の皆さんが汗をかいて走り回り、いろいろな人のネットワークのつなぎ役に徹して、iPhoneに関心がある人ならば誰でも集まりやすい環境を整備したことである。地道な裏方の努力があるからこそ、うれしい噂も広まるのだ。

 モバイルカフェには、進行役はいるものの、参加者のみんなが自分のアプリの自慢や悩みを率直に、また自由に語ることで、多くの新鮮な情報が共有され、そこから新しい情報が生成されている。このような関係のなかから次の開発を呼ぶ連鎖ができ、知らないうちに、みんなの開発ポテンシャルが磨かれる。その結果、大きな能力が発揮され、新しい成果が生み出される、という循環になっている。それを支えるのがドリームコアというインキュベーションのためのオープンなフリースペースだ。夕方からの、ややまったりした雰囲気で始まる場づくりがこのような開発にぴったりである。このようなシーンは、企業のような私的な利益追求の姿勢が前面に出る場ではみられず、公の立場が単なる触媒に徹することで初めて実現する。

 このプロジェクトにはキーマンが存在する。情報と芸術の融合を創立理念とする教育機関(IAMAS)に所属する赤松正行教授だ。彼はiPhoneのアプリ開発の世界的なトップランナーで、彼を慕って多くのフォロアーが参集する。しかも、その関係は教育機関にありがちな教師と学生ではなく、一緒にアプリ開発を探究する仲間同士という関係だからこそ、ここが新しいアプリの開発拠点になっている。人柄はリアルなコミュニケーションでは不可欠な要素なのだ。

 地域の活性化は、いろいろな偶然が重なって実現するから面白い。机上で考えているだけでは、何も起こらない。
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