視点

流通・再販へと重心を移すクラウド市場

2013/06/27 16:41

週刊BCN 2013年06月24日vol.1486掲載

 サン・マイクロシステムズのCTO、グレッグ・パパドポラス氏が「この世界には5台のコンピュータしか必要ない」というタイトルのブログエントリーを書いて話題になったことを覚えておられるだろうか。2006年末のことである。グーグル、マイクロソフト、ヤフー、アマゾン、イーベイ、セールスフォースの名前を並べ、これら市場競争力があり、高度に専門的な少数の企業群が世界中のコンピューティング基盤を提供することになるということを、電力、通信、輸送などの基幹産業になぞらえて論じていた。例として挙げられた個々の企業がそうなれるかどうかは別として、長期的には必ずしもその主張を否定するものではないが、少なくとも今のところ、クラウド市場はこれとはだいぶ異なる状況にある。

 実際、アマゾンのEC2やS3と呼ばれるサービスに似た(その多くは似て非なるものではあるが)仮想化サーバーやストレージサービスを提供する事業者が次から次へと市場に現れている。その背景には、クラウド基盤を構築し、運営するための技術が、オープンスタック、クラウドスタックなどの例を挙げるまでもなくオープンソースとしてさまざま提供され、誰もが容易に手に入れることができる。そして、情報通信機器ベンダーも、クラウド基盤構築から運用管理、販売管理に至るまでの一連の技術的枠組みを提供するようになったことなど、クラウド事業へ参入しやすい技術環境が整ったことがある。

 今では、データセンターはもとより、ハードウェアメーカー、SIer、通信、電力などさまざまな産業分野の企業が仮想サーバーやストレージサービスなどのクラウド基盤系サービスを提供する事業に参入しており、加えて地方自治体による支援もあって、地域ごとに大小さまざまな事業者が立ち上がってきた。このため、自ずとこれら事業者間の競争が激化しており、それぞれ他の競合サービスとの差異化を図るための施策として、付加価値サービスの集積やSIerとの提携などを積極的に進めている。

 このような市場の状況を背景に、シスコやアルカテル・ルーセントといった大手通信機器メーカーが「クラウド・サービス・ブローカー」というクラウドサービス付加価値再販のための技術的枠組みを用意し、大手クラウドサービス事業者に対してブローカー事業の提案を積極的に行うようになってきている。クラウド事業の重心が「基盤構築技術」から、徐々に「流通・再販」へと移りゆく気配が感じられる。

一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫

略歴

松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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