新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)がクラウドサービス事業の海外展開に乗り出している。海外版クラウドサービスを用意して、2015年度に約5億円の売り上げを目指す。日本企業の海外進出に対応するもので、東南アジアに拠点を順次拡大していく計画だ。今年3月新設の「グローバルビジネス推進部」がその戦略を担う。
東南アジア拠点の拡充
シンガポールに続きタイにも
2012年に営業活動を開始したNSSOLのシンガポール現地法人が、今年3月に東南アジア向けクラウドサービス「absonne for Asia Pacific」の提供を始めた。「absonne for Asia Pacific」は2007年に日本国内で提供を開始した大規模システム向けIaaS「absonne」の機能を少し削って、小規模システムにも対応したもので、「コストを抑えて、投資効果が早く出るようにした」と、海外事業を推進する営業統括本部グローバルビジネス推進部の遠藤竜也部長は語る。
そのうえで、さまざまなシステムの構築から運用までを請け負う体制を整えており、3月にはネットサービス事業者の海外展開を支えるインフラとして、6月には大手企業の海外拠点情報インフラとして利用されはじめたという。
シンガポールに続いて、今年3月にはタイに現地法人を設立した。今後、東南アジアの数か国に拠点を設けて、新日鉄住金やそのグループ会社向けシステムの構築・運用を手がける一方、日系企業にクラウドサービスを拡販していく。「日本で取引しているユーザー企業が生産拠点をアジアに設けており、そのサポートをしてほしいとの依頼が増えている」(遠藤部長)という。製造業のほか、ホテル予約システムなどのインターネット・サービス事業者、流通サービス事業者からの引き合いもある。
東南アジアにおける日系企業のIT投資は国内よりも小さい。しかし、投資額が小さいからといって、セキュリティ対策やガバナンスが不要なわけではない。とくにグローバルガバナンスの観点から、国内IT部門の担当者には開発から運用までの状況把握が求められている。ユーザー企業がアジアを含めたサポートを必要としているのは、そのためだ。
逆に「海外のサポート体制をつくらないと、国内案件の獲得が厳しくなる」(遠藤部長)という危機感もある。海外を含めたインフラの統合や仮想化、アウトソーシングなどの案件では、各国ごとのサポートも要求されているという。応えられなければ、国内案件も失うことになってしまう。
海外に適した廉価版を揃える
通信事業者との協業も視野
東南アジアの事業展開には、価格も重要な要素になる。そこで、「廉価版ソリューションを検討している」(遠藤部長)。例えばERPだ。マイクロソフトの「Microsoft Dynamics CRM」に加えて、今年7月には米インフォアの中堅製造業向けERP「Infor SyteLine」の取り扱いを始めた。業務ソリューションもそろえている。マイクロソフトの「Microsoft Office 365」と周辺ソフトをセットにしたものが、その一つになる。サービスメニューの種類については、段階を踏んで拡充していく。まず、メールやスケジュールなど個人が必要なサービスを提供する。次にウェブ会議や文書管理などグループワークに必要なサービスへと進め、その後は業務ごとに必要なサービスへと広げていく計画だ。
ITインフラサービスについても、サービス価格を考慮し、柔軟に対応していく考えだ。すでに「absonne for Asia Pacific」を提供しているが、そのデータセンターが設置されているのはシンガポールだ。製造業の進出先を考慮すると、その他の国での設置が求められるかもしれないが、データセンターなどのIT設備を自ら保有することにこだわっていない。
遠藤部長は「当社はアマゾンのようなITインフラサービスの提供よりも、ソリューションやSIで勝負する」と話す。目下のところ必要以上のリスクはとらない考えだ。「ITインフラサービスは日本の通信事業者など各社が提供しており、必要に応じて活用していくことも検討している」(遠藤部長)。
NSSOLの東南アジアにおける売上計画は、2015年度に約10億円。その半分をクラウドサービスで見込んでいる。2002年に現地法人を設けてオフショア開発などを展開する中国の売り上げは、10億円に達するまでにおよそ10年かかった。東南アジアでは、それよりも早いスピードで売上高10億円の達成を目指すという。
だが、2000億円近いNSSOLの売上規模を考慮すると、10億円という売り上げは決して多いとはいえない。そこはどう評価されるのだろうか。グローバルビジネス推進部が事業部に格上げとなる日が楽しみだ。
【今号のキーフレーズ】
高まるグローバルガバナンス。海外でのサービス提供の有無が国内案件に影響する可能性あり