アジアの情報通信ハブを沖縄県内に形成するという構想を打ち出した「おきなわSmart Hub構想」。その核となる「沖縄クラウド」を広がりのあるビジネスに育てるためには、ネットワーク環境の整備も必須だ。さらに、沖縄には、アジアの「物流ハブ」としての側面もある。物流×ITの相乗効果を狙ったビジネスにも、官民連携で取り組んでいる。(取材・文/本多和幸)
首都圏、沖縄、アジアを光でつなぐ

盛田光尚
班長 沖縄県内の複数のDCを仮想的に連携させて一つのクラウド基盤として使う「沖縄クラウド」の実現にあたって、インフラ面で課題といえるのが、通信料の問題だ。現段階で、沖縄県内の通信費は本土と比べて割高だ。そこで県は、複数のDCやIT津梁パークなど、県内の情報通信拠点をつなぐ足回り回線として整備した光ケーブルネットワークの利用者を増やすために、今年度から2015年度までの3か年の補助事業を立ち上げた。ユーザーに対して、県が整備したネットワークを使うためのシステム構築費などの最大2分の1(上限1000万円)を補助する。
一方で、首都圏や海外と沖縄を光ケーブルで接続するネットワークを構築する新規事業「アジア情報通信ハブ形成促進事業」も、今年度に開始している。沖縄県情報産業振興課の盛田光尚・基盤整備班長は「国際情報通信ハブの拠点としての第一歩となる事業」と、力を込める。
現在、沖縄に陸揚げされている国際海底光ケーブルは2本。いずれも東アジアとは直接つながっているが、首都圏に到達するルートがない。この事業は、そうした課題を踏まえ、まさに「沖縄をハブとして、首都圏、東アジア、東南アジア、例えばシンガポールを最短距離でつなぐ海底光ケーブル網の構築を目指す」(盛田班長)ものだ。地元のIT産業界も、「通信インフラ間の競争も活性化し、通信料が下がるメドがつく。情報ハブとして沖縄の地の利が一段と生かせるようになる」と、大きな期待を寄せる。

渡嘉敷唯昭
社長 具体的な事業のプロセスとしては、既存の通信キャリアが敷いた海底光ケーブル網を調査し、最も効率的に沖縄に陸揚げできるケーブルの所有者に、構想への参画を働きかけていくことになる。
一方、沖縄クロスヘッド(渡嘉敷唯昭社長)を中心とする事業会社「GIX沖縄」は、既存の国際海底光ケーブルを活用して、すでに中国本土と沖縄本島を安定した高速回線で結ぶ通信サービス「沖縄GIX」を運営している。同社は、MSP(Management Services Provider/サーバーやネットワークの運用・保守など)が事業の基盤で、近年、新たにIaaSやSaaSアプリなどのプロダクトサービスを始めたほか、GIXをはじめとするネットワークサービスにも進出したかたちだ。
渡嘉敷社長は「例えば製造業のお客様には、中国のDCにCADデータを置きたくないといった要望もあり、GIXのニーズは高い。ただ、情報系のシステムなどはエンドユーザーに近いところに置きたいという声もある。当社は沖縄と福岡にDCがあるが、今期中には香港側にも専用DCを用意し、MSPやクラウドのノウハウとGIXのメリットを合わせた新たなサービスを展開していく」と話しており、まさに沖縄をアジアの情報ハブとする新しいビジネスの開拓に積極的な姿勢をみせている。
テストサービスを物流に組み込む

翁長亨
グループ
マネージャー また、沖縄県は国内唯一の国際物流特区でもあり、アジアと日本を結ぶ「物流ハブ」としての地理的なメリットも注目されている。「おきなわSmart Hub構想」には、こうした動きをIT産業と連携させ、シナジーを発揮するという施策も掲げられている。
県が着目しているのは、「テストサービス」だ。すでに昨年度から、「モバイル機器等検証拠点形成促進事業」という補助事業(2014年度までの3か年)がスタートしている。情報家電やモバイル機器の国際的な物流プロセスに、うまく沖縄でのテストサービスを組み込み、地の利を発揮したいというわけだ。この事業は、一般社団法人IIOTが受託している。「Internet of Things(IoT)」時代の到来を見据え、さまざまな情報機器の相互接続について検証手法や検証ツールを開発し、その国際標準化も目指す。IIOTプロジェクトマネジメントグループの翁長亨グループマネージャーは「県内のITベンダーなどが、ここで開発した検証基盤を使い、国際的な検証ビジネスを手がけられるようにしたい。IT産業の雇用促進だけでなく、日本のものづくりの手助けとなる取り組みだと自負している」と、意欲を語る。

屋良朝之 氏 このほか、テストサービス関連では、これまで進めてきたコールセンター誘致の実績を生かし、顧客のクレーム情報などを分析して機器設計に反映させるための基盤ツールを開発する「新たな組込システム検証基盤構築事業」も、同じく昨年度に始まった。こちらは、TIDAコンソーシアムが受託している。具体的な業務としては、テキストデータの解析アプリケーション「Corona」と、ユーザー指向を踏まえた効率的なテスト設計を支援するモデリング・テスティングツール「Horbit」を今年度中に完成させる。TIDAコンソーシアム事務局の屋良朝之氏は、「コンソーシアムは権利保有団体で、構成各社にライセンスを許諾し、自由にビジネスをやってもらいたい」と構想を話している。
IIOT、TIDAコンソーシアムとも、IT津梁パークに拠点を置く。パークの中核企業として県内外の企業の出資により設立された沖縄ソフトウェアセンターやGIOTが運営の中心だ。「おきなわSmart Hub構想」実現に貢献するIT産業の集積という点で、象徴的な活動を展開している。