沖縄県のIT施策の中心をなすのが「沖縄クラウド」だ。県は、公設民営の「沖縄クラウドデータセンター(仮称)」の整備に着手したことに加えて、クラウド基盤やSDN/クラウドソリューションの研究開発事業も、官民連携で推進している。オール沖縄で構築したクラウド環境や関連技術を、日本やアジアのデファクトとして育てようという野心的な取り組みだ。(取材・文/本多和幸)
県内連合がクラウド基盤を開発
「沖縄クラウド」のコンセプトは、県内のデータセンター(DC)をネットワークでつなぎ、仮想的に巨大なクラウド基盤をつくろうというもの。その核となるのが沖縄クラウドデータセンターだが、こうしたハードの整備や通信ネットワークの整備といった取り組みのほかに、IaaS、PaaSなどのクラウド基盤やSaaSのマーケットプレイスなども独自に構築するとともに、SDN(ソフトウェア・デファインド・ネットワーク)の研究開発も行っており、「沖縄クラウド」への実装を目指している。
県や県内IT産業界は、これらを日本全国のソフトベンダーやSIerなどにクラウドソリューションの提供基盤として広く使ってもらうのはもちろん、中国、東南アジアに近いという地の利を生かして、日系企業の海外事業所向けのクラウドサービス拠点としても展開したいと考えている。

山城英正
ジェネラル
マネージャー 沖縄クラウドデータセンターは公設民営なので、現在、県が自ら事業主体となって建設を進めているが、クラウド基盤やSDNの研究開発は、国の交付金を活用し、8~9割の高い補助率で民間事業者に委託している。まさに「オール沖縄」で進めているビッグプロジェクトだ。
沖縄クラウドの基盤開発、正式には「クラウド拠点形成等促進事業(クラウド・データセンターに実装するクラウド共通基盤システム構築)」を受託している沖縄データセンターは、「オール沖縄」の象徴といえる。県内最大のSIerであるオーシーシー、有力地銀の琉球銀行、沖縄銀行それぞれのSI子会社であるリウコム、おきぎんエス・ピー・オーの3社が中心となって、この事業のために設立した企業だからだ。同社の山城英正・ジェネラルマネージャーも、「複数の企業が出資し合ってつくった民間企業ではあるが、官の色彩が濃い」と話す。

森山諭
取締役 事業期間は3年で、具体的な内容は、クラウド基盤ソフトのOpenStackや運用管理ツールのZabbixなど、OSSを全面的に採用した先進クラウド環境の開発だ。NECが構築パートナーとして参画している。事業がスタートした昨年度は、IaaS基盤とシステムの運用管理技術を開発した。森山諭・取締役は、「補助金をもらっていることを強く意識しており、さまざまなITベンダーに、アイデアさえあれば商売を始められるようなクラウド環境を低コストで提供するのがミッション。だからこそOSSにこだわっている」と話す。
今年度は、PaaS基盤を開発し、来年度はこれまでの開発成果を活用したマーケットプレイスの構築に取り組む。さらに、来年度に供用を開始する予定の沖縄クラウドデータセンターの運営事業者としても名乗りを上げる。もちろん、公共事業の発注としての公正な手続きは必要だが、これまでの経緯からみて、同社が受注する可能性は極めて高いといえそうだ。
SDNの最先端研究拠点に

高澤真治
副事務局長 一方、今年度からの新規事業「クラウドオープンネットワーク国際研究開発拠点形成事業」は、一般社団法人沖縄オープンラボラトリが受託している。OSSの国際団体や学術機関とも連携して、SDNやクラウドコンピューティングの先端研究開発拠点を構築し、実行環境でも十分に効果を発揮するリファレンスモデルの開発・検証を行う。そして、成果をオープンソース化して国内外への普及を図る。
沖縄オープンラボラトリは、NEC、NTTコミュニケーションズ、イイガの3社が、沖縄IT津梁パークに設立した研究機関。すでにCTC、NTTPCコミュニケーションズや、県内ベンダーでは沖縄クロスヘッドが賛助会員に名を連ねており、年度内に30社程度まで拡大する見込みだという。高澤真治・副事務局長は「SDNの研究ではまさに日本の先端。SDNソリューションをきちんと動くレベルまで検証できる研究機関は国内には沖縄オープンラボラトリしかない。外資系の大手スイッチベンダーなども、OSSによるSDNの流れを無視できなくなってきており、問い合わせが増えている」と話し、このプロジェクトが、単に県内のIT産業育成という枠組みを超えて、日本のITベンダーが知見を集積させ、SDNのデファクトスタンダード確立を目指す取り組みであることを示唆する。
また、沖縄クラウドデータセンターが稼働する際は、沖縄データセンターが開発したクラウド基盤上に、沖縄オープンラボラトリが開発したSDNの実装モデルを乗せて運用する可能性も高いという。これが実現すれば、クラウド環境のモデルそのものを、先駆事例として広く海外展開することもできそうだ。