篤農家の生産・経営ノウハウをデータ化して活用することで、一般農家の生産性や作物の品質を向上させることを目指す「AI農業」の確立に向けて、農林水産省は2010年から「AIシステム」の研究開発事業に取り組んできた。
「スマート農業」の実証事業を構想
「AIシステム」は、どんな作物に対して、どんな気候のどんな時期にどんな農作業を行った結果、作物の状態がどう変化したかという情報をデータベースに蓄積する。そして、文書化した熟練農作業従事者のノウハウ情報や過去の文献などと合わせて、学習型アルゴリズムをもつ「AIエンジン」で解析するシステムだ。農産物の質と農作業の効率を高めるための判断をサポートする。
これまでは、慶應義塾大学が介護・福祉分野で取り組んできた「技能継承プラットフォーム」を農業用に拡張するなどして、プロトタイプのシステム、データベース、センサの開発などを進めてきた。今後は、実証事業を通して、実用化に向けたブラッシュアップを図る。
また、トレーサビリティ・システムの確立に向けては、有識者検討会を開いて既存のトレーサビリティ・システムをクラウド化し、汎用性の高いシステムとして再構築するためのグランドデザインを検討する予定だ。さらに、モデル地域の農産物を対象に、クラウドシステムの構築から運用までの実証事業も行う。
さらに注目されるのが、農水省が来年度から3年間の新たな実証事業として、平成26年度予算で要求した「ICTを活用したスマート農業導入実証」事業だ。環境情報を蓄積・分析するセンサや、農作業、経営管理を支援するITシステムを導入し、地域の農産物の高品質化や高付加価値化を図る取り組みを実証する。一見、AIシステムの開発と趣旨が重なるが、地域協議会の開催や、スマート農業に必要なIT機器の導入、さらにはマーケティングなども一体的に支援する補助事業で、地域の農業を網羅的に高度化しようという意欲的な取り組みである。(本多和幸)