中小企業のIT経営を支援していると、経営者の売り上げや原価管理がずさんなことに驚くときがある。例えば、製品の配送作業に従事していた中小の製造業の経営者に、「そのトラック1台分の出荷で、儲けはどのくらいですか」とたずねたところ、「わからない」という答えが返ってきた。案件ごとの収支や粗利をたずねても、売上額などの大まかな数字を答えるだけで、実数を把握していない──そんな中小企業の経営者は、意外に多いのだ。
私は、そんなどんぶり勘定の中小企業の経営者に対しては、ITの活用によって、まずは経営の実態を把握してもらうことを推奨している。このことが業績の向上に直結するからだ。
かつて支援した中小の製造業では、データ分析ソフトを導入して、売上原価や利益率、損益分岐点などの詳細を管理してもらった。すると、分析ソフトを活用するうちに、営業担当者の意識に変化が現れた。単月を黒字化するために必要な最低限の売上額を把握して、自然とその数字を達成しようと努めるようになったのだ。分析ソフトを導入しておよそ1年間で、その中小企業は利益率を9ポイントほど伸ばすことができた。営業体制の改編などは一切行わず、経営を見える化しただけで業績を高めた好例だ。
中小企業にとって、ITに大きな投資をすることは簡単ではない。しかし、「Microsoft Access」を活用して、簡単なデータ分析システムを構築するなど、経営を分析するだけならば、あまりコスト面での負担はかからない。製造業を中心に、まだ経営の見える化ができていない中小企業は多い。だからこそ、ITCにとっての活躍の場が残されているわけだ。(談)
【ITコーディネータのプロフィール】名前:内田紀郎
所在地:さいたま市浦和区
所属:さいたまIT経営支援LLP(有限責任事業組合)
略歴:大手ソフトウェア開発会社でSEの仕事に従事した後、独立して、現在は中小企業のIT経営を支援している。中小企業診断士の資格を保有。