「クラウドサービスでは必要なアプリケーションが揃わないのではないか」という質問をされることがよくある。そのようなときには、現在使用中のパソコンあるいはサーバー上にあるアプリケーションをクラウドコンピューティング・プラットフォームへ移行して、そこで足りないアプリケーションをクラウドサービスのなかから探すという考え方をしてはいかがかと答えるようにしている。ユーザー企業が、使い慣れたアプリケーションをいきなり捨てて、クラウドサービスのなかから同等のアプリケーションを探すという選択肢は考えられない。かといって、パッケージソフトウェアを新規購入し、パソコンやサーバーに導入して利用するという選択肢も今となっては考え難い。
パソコンへのインストールからクラウドの利用へとアプリケーションの利用環境が移行する過渡期にある現在、スマートフォンなどの非パソコンの利用やTCOの削減なども考えると、現状維持に固執していては最適解は得られない。一方で、クラウドサービスの積極導入に踏み切った数百人規模の企業で、それぞれ異なるプロバイダのERP、SFA/CRM、BIツールなどいくつかのクラウドサービスを導入した結果、その統合管理体系を構築できず、運用管理に困っているという話も聞く。これもクラウドサービスの導入を進め難い理由の一つである。コンピュータソフトウェア協会クラウドビジネス研究会は、CompTIA(コンピューティング技術産業協会)の協力を得て、昨春、今春とクラウドコンピューティングに対する市場の理解度に関するアンケート調査を行った。そこからみえてくるのは、クラウドコンピューティングに対する抽象的な理解は進んでいるものの、その導入に関する技術的な側面や、それを活用することによって期待される効果などへの具体的な理解はまだ十分とはいえないという実態だ。
多くの人々がクラウドコンピューティングの活用に関心をもっている今、この考え方を市場に定着させ、その利用を促進するために情報技術事業者がなすべきことは明白だ。まずは既存情報システムのクラウド移行を進め、その既存情報システムと各種クラウドサービスとの統合を支援し、クラウド上に移行された既存情報システムとクラウドサービスの運用管理環境を整備しなければならない。そのための技術やノウハウはすでにクラウド上に揃っている。
一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。