この連載は、IT業界で働き始めた新人さんたちのために、仕事で頻繁に耳にするけれど意味がわかりにくいIT業界の専門用語を「がってん!」してもらうシリーズです。
柴田克己(しばた・かつみ) ITをメインに取材・執筆するフリーランスジャーナリスト。1970年、長崎県生まれ。95年にIT専門紙「PC WEEK日本版」の編集記者として取材・執筆を開始。その後、インターネット誌やゲーム誌、ビジネス誌の編集に携わり、フリーになる直前には「ZDNet Japan」「CNET Japan」のデスクを務めた経験がある。
ソリューションはハードでもソフトでもサービスでもない
「ソリューション」ほど、IT業界で頻繁に使われながら意味がはっきりしない言葉はないだろう。「セキュリティソリューション」「ERPソリューション」「業務改善ソリューション」……。IT業界にはソリューションがあふれている。英和辞書でソリューション(Solution)を調べると、「解決(策)」という広義が書かれているが、はたしてIT業界でいわれるソリューションとは何なのか。
どんな企業でも、必ず課題を抱えていて、それを解決する手段・方法を密かに探している。「営業力を強化したい」「手間がかかる業務を効率化したい」「重要な情報を守りたい」などなど、それは企業ごとにさまざまだ。パソコンや「Microsoft Office」などのソフト、インターネットなどの「IT」なしでは仕事ができない今の時代、その課題を解決する有効手段はITであることが多い。ITを売る企業(ITベンダー)にとって、企業の課題はビジネスチャンスにつながる。
ここで大切なことは、IT機器やソフトは、購入すればそれだけでお客様のビジネス課題を解決できるわけではないということだ。また、一つひとつのIT製品やサービスは、解決するための部品に過ぎないということ。お客様の課題を解決する方法がたとえITであっても、一つひとつのIT製品だけでは、お客様の課題を解決することはできない。そこでソリューションの出番となる。お客様の課題を聞き出し、それを解決するために必要なハードとソフト、サービスを選び出し、それらを組み合わせてお客様が使える状態にして納品し、成果を出すためにサポートを行う。この一連の仕組みこそがソリューションというわけだ。ここまで長文で説明しなければならない点が、ソリューションを曖昧にする理由の一つかもしれないが、ソリューションが単なるハードやソフト、サービスのことを指しているわけではないことを知ってほしい。
ITベンダー側は、「この製品が便利なので買ってください」ではなく「御社が抱えているビジネス課題を解決するためにこうしたアプローチがあります。そのためにこうしたITが必要です」という提案が必要になるわけだ。
“なんちゃってソリューション”もある使い方には要注意
ソリューションという言葉が氾濫しているのには、少しネガティブな理由があることも押さえておきたい。
ITを購入する企業としては、単なる製品を売りっぱなしにされるよりは「課題解決できるようお手伝いします」という意味のソリューションとして提案されるほうが、何となくITベンダーの会社そのものや製品を信頼できるイメージがある。不誠実なITベンダーは、このお客様心理を突いて、単なる製品をソリューションと呼んでいるケースがある。製品を売り切ってビジネスが終わるよりも、それに付随するさまざまなサービスを(お客様にとって必要か不必要かは関係なく)ソリューションとして組み合わせて売ったほうが、利益率の高いビジネスにつなげやすいといった意識が働いているのだ。そのため、お客様のニーズに合わない付加サービスなども一緒くたにして「ソリューション」として売り込む……。「悪しき慣習」が一部にあることも、残念ながら否めない。
そうしたネガティブな「ソリューション提案」があることも理解しつつ、人から聞くときにも、自分が話すときにも「どの範囲を指しているのか」「この提案はお客様の課題解決に役立つものなのか」を意識して、ソリューションという言葉に向き合っていただきたい。
Point
●ソリューションは、お客様が抱えている課題の解決を手助けするためのコンサルティングサービス、IT製品、カスタマイズ開発、導入後の運用サポートなどを含んだ言葉。
●範囲が曖昧で“便利な”言葉なので不適切に用いられるケースがある。聞くときにも、話すときにも「どの範囲を指しているのか」「お客様の課題を解決できるか」を意識しておくこと。