「社員数は、2013年が60人、2014年が150人、2014年が230人、2015年には300人を予定しております。しかし、これだけ増やしても仕事が受け切れません。これ以上人を増やそうにも、人材の育成が追いつかないのです」。本当かいな、という話をするのは、ミャンマーのヤンゴンに進出したソフトウェア開発会社、サイバーミッションズ(本社・横浜市中区)の有馬治彦社長である。
アジアに進出する場合、その国の特質を理解したうえで臨むことが非常に大切である。ミャンマー人は語学のレベルが並ではない。私が取材したほとんどの日系企業のローカルスタッフは、英語と日本語ができる。タクシー運転手の90%は、英語が大丈夫である。ミャンマーでは、街の食堂に行くとどこでも子どもが店員をしている。まだ、児童が仕事をするのは普通のことである。しかし、夕方ともなると、どこの地区にも寺小屋のような施設(民家)があって子どもたちが通う。ここで算数、国語、英語、日本語などの勉強をしている。熱心な施設は夜の9時、10時頃までやっている。地域に広がるこのボランティアの草の根の教育施設の存在が大きい。ミャンマーの潜在成長力を格段に高めている。
こんな背景があって、ミャンマーではIT技術を習得し、日本語、英語ができる人材がたくさん育成されている。一方、インドはIT技術のレベルは高いけれども、日本語ができる人材は少ない。中国東北部は、日本企業の仕事を行うIT技術者のなかに日本語ができる人は多いが、英語までできる人材は少ない。
有馬社長は、この語学力に着目した。例えば、日本の銀行の情報系システムの英語版などはミャンマーの技術者たちは軽くこなす。これは、インドや中国、あるいは日本でも軽くこなすことができるというわけにはいかない。原子力開発や通信システムなどの大規模なものの開発はインドに任せて、日本企業に密着した生産システム、制御システムなどは中国東北部に頼るとすると、そんなに大規模ではないけれども、IT技術者が日本語ができて、英語も理解するミャンマーでというカードが出てくる。そんなわけで、サイバーミッションズには、海運の在庫管理、銀行の与信管理、メーカーのウェブサイト、IT企業のソーシャルアプリなど、ミャンマー向けの仕事がどんどん持ち込まれている。
アジアビジネス探索者 増田辰弘
略歴
増田 辰弘(ますだ たつひろ)

1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。