クラウド事業を成長させるには、「若い力」が必要──。業務ソフトを提供するピー・シー・エー(PCA)は、この若い力を求めて、新卒採用に積極的に取り組んできた。その結果、首都圏の販売パートナーにクラウド商材を提案する営業部は、数人のベテランと社会人経験が3年未満の若手たちという構成になった。金子隆太郎さんは、「若手は失敗経験が足りない」とみて、ベテランとタッグを組ませて最前線に送り出すことで、営業の力を身につけさせている。ラグビー部の元主将が、どう勝利に導くか。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
金子 隆太郎(かねこ りゅうたろう)
大学卒業後、飲食事業を手がける企業でメニュー開発などに携わる。1990年、ピー・シー・エー(PCA)に入社し、東京営業所に配属。戦略企画部部長や東日本営業部部長を経て、2013年4月、首都圏営業部の設立とともに部長に就任。東京支店長を兼務し、約60人の部下を率いる。
フリースペースを人材育成に生かす 勝つためのチームづくり
PCA本社の5階をご案内します。こちらは、私が率いる首都圏営業部のフロア。ご覧の通り、完全にフリースペースになっている。外回りの営業担当者には、決まった席がない。夕方、お客様訪問から帰ってくると、自由に席を選び、資料をつくったり、ほかのメンバーとディスカッションしたりしている。
このフリースペースは私が提案して、昨年4月に設けた。これによって、ベテランと若手の間の会話が活性化している。社長も気に入ってくれ、「脳に刺激を与えるよう、部下を必ず毎日、違う席に座らせろ」と、念押しされる。改装を予定している大阪オフィスの担当者からは「写真を送って」と依頼されるなど、当社にとって初めての取り組みだったフリースペースは、全社から評価されている。
私は高校のとき、ラグビー部の主将だった。チームには、体格の大きな人、機敏な人、足の速い人など、いろいろなタイプの選手がいる。それぞれの個性にマッチしたポジションを決めるのは、主将の腕の見せどころだ。会社もラグビーと同じ。それぞれのメンバーには、必ず適したポジション、つまり得意分野がある。フリースペースは、彼らの個性を見極め、柔軟にチームを組んだり、部下たちのそれぞれの強みを引き出したりするためのフィールドだ。
私の部署は、クラウド事業の拡大がミッション。若手社員を一人前に鍛えて、将来、会社を支える人材を育成する部署で、全社から注目を浴びている。今の若手は、子どもの頃からインターネットを使い慣れている「クラウドネイティブ」の世代で、クラウドの利用にはまったく抵抗がない。気軽にウェブを活用して提案先の情報を収集しているし、分析のスキルも優秀。しかしその一方で、失敗が怖いからか、行動力に欠けるのが弱点だ。そこで私がフル活用しているのが、失敗をも恐れないベテランたちの豊富な経験である。
例えば、若手には、電話でお客様と話すときは、立ち上がって、周辺にいる人に聞こえるよう、元気よく大きい声で話すよう指導している。これによって、若手は、何をどう話すかを意識して、ちゃんと言葉を選ぶようになるし、電話が終わった後、「ここはこう話したほうがよかった」というように、ベテランがその場で的確に助言することができる。お客様への訪問も、若手とベテランでペアを組み、力を合わせて行っている。もちろん、一方的に若手がベテランから学ぶのではなく、ベテランも、自分が苦手なウェブ活用などについて、若手からアドバイスをもらうなど、お互いを補うようにしている。
私が入社した1990年、当社には一人1台のパソコンも携帯電話もなかった。公衆電話からアポイントメントを入れ、お客様を訪問して、初めて接点をもつことができた。今は社内にいてもお客様とコミュニケーションできる時代だが、だからこそ現場主義を貫き、パートナーに当社のクラウド商材を積極的に提案している。
私の営業方針を表す漢字は……「百」
数字の目標を決め、部下のパフォーマンスを引き出すには、「百」を目指すのがちょうどいい。ある月に目標を百以上に設定して、頑張って達成できたとしても、翌月はその反動でパフォーマンスが落ちて、マイナスになってしまうことがあるからだ。ちなみに、「百」の大切さを教えてくださったのは、当社の創業社長、故川島正夫さんだ。若手メンバーとベテランがタッグを組み、それぞれの強みでお互いを補いつつ、チームが一丸となって常に「百」を目指したい。