このところIT技術者仲介のダイレクトメールが増えてきて、気にはしていたのだが、それに加えて受託開発案件やIT技術者派遣の問い合わせがいろいろとやってくるようになった。私たちのような小規模IT事業者にとって、質の高いIT技術者をなかなか雇用できない悩みが常にあるのだが、ますますそれがかなわぬ市場環境になってきた。
私どもはワークスペース、プレゼンテーション、そしてアプリケーションというレイヤの仮想化技術の提供を生業としているので、その周辺の技術支援依頼をいただくことが多いのだが、この周辺技術に熟練したIT技術者というのは極めて少ない。過日、技術支援を求めて相談に来られた大手ハードウェアベンダーの担当の方からも、この手の人材がますますみつからなくなってきていると聞かされた。要は、技術的に難しくて利益を出しにくいため、情報システムのクラウド化が進むなかで重要な技術レイヤであるにもかかわらず、どこも手を出さなくなったというのである。
ここにきて私たち自身がクラウドサービスの提供を始める決断をしたのだが、その根底にはこのIT技術者が確保できないという問題がある。難しい技術を仮想アプライアンス化してクラウドサービスとして提供することによって、限られた熟練技術者でより多くのユーザーをサポートできるような体制を組むというのがその狙いである。クラウドサービス化すれば技術者が要らなくなるというわけではなく、システム運用の自動化や運用管理のための技術要員は当然必要になるが、こちらはルーチンワークなので要員確保は比較的容易である。とはいえ、これもまた国内市場で確保することは難しく、縁あって知り合ったインドのアウトソーシング企業と提携することにした。
少し前までは、私どものような小規模IT事業者が海外企業と人的資源の供給で提携できるとは考えたこともなかった。それが、クラウドプラットフォームが普及したおかげで海外の人的資源を活用するという考えが現実味を帯びてきた。実際、今回提携したインド企業を訪問し、経営陣と一週間じっくり話し合い、それを確信することができた。深刻なIT技術者の不足へ備える術として、小規模IT事業者にとっても海外の人的資源を活用する選択肢が現実にあるという事実に目を向けていただければと思う。
一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。