これまでわが社(きっとエイエスピー)で取り扱ってきたクラウド技術ライセンス製品をクラウドサービスとして市場に提供すべく、その企画・設計から価格政策・マーケティング戦略の策定に至るまで、社内のエンジニアやセールス担当者たちと一緒に取り組んできたが、恥ずかしながら次から次へといろいろな問題が露見し、それを解決するというか、回避するためにずいぶん遠回りしてしまった。とくにライセンスを売ることとサービスを売ることの違いをエンジニアたちになかなか理解させられなかったことが深刻な問題であった。
当社は小さい会社であるがゆえにそうせざるを得なかったのだが、すべてのエンジニアにハードウェア層からアプリケーション層まで幅広く経験するよう求めてきた。そのおかげで、自前でパーツを買い集めてサーバーを組み立て、クラウド環境を構築し、その環境上でさまざまな社内システムや顧客向けシステムを常時運用する程度のことは苦もなくこなせるエンジニアが揃っている。昨今流行のフルスタック・デベロッパーなんて、私たちにとっては至極あたりまえのこととうぬぼれていた。そんなわけで、サービス開発に着手した当初は、サービスに関する企画をエンジニアに伝えさえすれば、サービスの受注、クラウド上でのサーバーの構築、ユーザーへの受け渡し、運用サポートなどのシナリオは当然彼らにできるものと思い込んでいた。これが大きな間違いだった。待てど暮らせど望むものは出てこなかった。彼らは極めてすぐれた技術スペシャリストに過ぎないという事実を改めて思い知らされた。
フルスタック・デベロッパーとは、Laurence Gellertのブログ「What is a Full Stack developer?」によれば、サーバー、ネットワーク、ホスティングのクラウド環境にとどまらず、データモデリング、ビジネスロジック、ユーザーインターフェース、ユーザーエクスぺリエンス、そしてビジネスニーズまで幅広い知見を有するものである。そんな人材なんて一体どこにいるのかと思われるだろうが、ここで大学時代の恩師の言葉を紹介してその答えとしよう。「管理工学とはスペシャリストを育てる学問ではありません。ジェネラリストを育てる学問です。ジェネラリストとは、ある目的のために必要なさまざまな分野のスペシャリストにどのように依頼をすればその目的を実現できるかわかる人のことです」。
一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。