2014年4月25日、未来戦略講座「22世紀アカデミー」開講を記念し、“SIビジネスNew学式”と題したセミナーが開催された。テーマは「従前のSIビジネスが崩壊する理由」。“崩壊”・・・「そこまで言ってしまうか」と思いながらパネラーとして参加した。コラム執筆にあたり、このタイトルについて改めて語りたい。

 「SI崩壊」でネットを検索すれば多くの記事がヒットする。「崩壊」とは、「壊れて形がなくなること」。それを考えれば「SIビジネス」は末期状態であるはず。しかし、SIerの方々と話をしても、そんな危機感は感じない。最近も大手SIerの上のクラスの方と何人か話したが、一様に「人がいない」という発言が聞かれる。これはどういうことなのか?

 「人がいない」とは「人手が足りない」ということ。需要が供給を上回っているということだ。「SIビジネス」の需要はある、それも供給以上に。では、なぜ「SI崩壊」という“キーワード”がそこかしこに表れ、話題となるのか? それは、おそらく誰もが『「SIビジネス」の根幹の問題』を認識しているからだろう。この「問題」は今に始まったことではなく、ずっと以前から、連綿と続いている「業界の負のレガシー」と言っていい。

 コンピュータの歴史は電子計算機と言われたころからであり、60年ほどだ。元々「スピードアップによる時間的効果」と「コスト削減による資源的効果」をもたらした。一言で言えば「効率化」。これは「工業化時代」同様の「機械化」であり「労働の代替」であった。しかし、今は「情報化社会」。「情報化」は「知的活動の代替」として企業の戦略面で大きな役割を担っている。

『「SIビジネス」の問題』とは:

 私は「崩壊する」とは思っていない。それを踏まえて3つ話したい。

(1)「見えない財」

 60年を経て、企業にとっては標準装備であり戦略的な武器(ウェポン)であるにも関わらず、情報システムを作るためのエンジニアリングは何も確立していない。

 IT業界という言い方も曖昧なのだが、よく建築業界に例えられる。SIにおいては、顧客の要件を受けて設計し構築する。注文建築と同様だ。仕事の流れも多階層の請負型という構造が似ているため「ゼネコン体質」だと言われる。しかし、元大成建設CIOの木内里美さんに言わせれば「冗談ではない。ゼネコン体質などと言ってほしくない」と。その理由は「建設業界がどれだけ“法”に縛られているか、知っているのか」ということ。

 いわゆる「IT産業」には業法がない。国家資格・認定資格がない。見積もりの積算基準も、品質を計る方法も定義も、不適格業者の排除も、再委託先の明示義務も、そもそも設計書すら確立された方法がない。PL法も適用外だ。60年経った今も何も見えない。まさに「見えない財」。私もここで生きてきたから責任の一端がある。

 価値もスキルも品質も見えない。なので、人月契約が顧客・請負業者双方にとって楽な契約となる。業者側からは「何人が何ヶ月稼働するので、いくらください」と。顧客も最初にコストが明確となるのでありがたい。しかし、この契約は「良いシステムを作る」という本来の目的を阻害する。

 また、スキルに資格がないということは、将来それで食えるわけではないということ。建築業界とは大きな相違だ。若者のキャリアパスをどう描くのか。明示するのか。

 そして、オフショアが始まった時から、人月商売は利益を生むことができない。少なくとも安定して大きな利益を生むことが困難なビジネスであることはみな理解しているはずだ。

(2)人口構造

 下図は、15歳から34歳の人口推移。2014年と2000年との比較では846万人減少している。図では分からないが、20歳台の若者は約600万人の減少。一方で、知っての通りシニアが増え続けている。

図:労働人口推移(統計局データより) 単位:万人

 ソフトウェアにおいて、以前より「35歳定年説」という言葉があった。能力や体力、また、組織としてのキャリアパス上のことなのかは分からない。また、正しいかも分からない。しかし、自分が40歳を超えたころを思い浮かべると、40歳以上でプログラムを書く現役は、ほぼいなかった。いたのは、フリーランスでスキルある人か、社内でも「プログラミングするために生まれて来たのか」といった天才肌だけ。多くのSEやプログラマーは「プロジェクト管理」「人の管理」にまわる。技術職ではなく管理職となる。

 管理職が多くて製造メンバが少ないプロジェクトはないだろう。若い製造人口が減り続け、管理職以上のシニアが増え続ける。日本そのものを象徴する逆ピラミッド構造がSI企業にも起こる。どう運営するのか。

(3)プライドと不人気

 楽天やDeNAなどの企業は昔からある企業ではない。技術の波をうまく掴まえて成長した。SIerも含めて「IT産業」と呼ばれるが、ソフトウェア自体を作る側として「彼らはITを使っているだけ、自分たちはITを作っているんだ」と。私もそうしたプライドを持っていた。しかし、最近アメリカで上場したアリババはトヨタの時価総額を上回った。ITはツールでしかない。ITを使いこなした企業が勝っているという現実がある。そして、「ITを作っている」と胸を張る側のほうが、社内でもITを有効に利用していない。

 下表は、学生の就職人気ランキング。景気向上も手伝って各IT企業の人気も上がってはいる。しかし、全産業から見れば不人気であることは間違いない。ITという技術は本来最先端であり、世界を引っ張る魅力的でクリエイティブな職業であるはずだ。

表:就職人気ランキング(2015年度) 出典:楽天 みん就

 「SIビジネス」は崩壊しない。しかし、危機を感じながら目の前の仕事をこなすことに手一杯で、変革に動かないならば、「崩壊しても仕方がない」。

 若者にそっぽを向かれる職業は、社会にとって存在意義があったとしても成り立たない。若者が魅力を感じ、キャリアパスを描け、クリエイティブな仕事から生み出される「価値を売る」。“シフト”を目指して欲しい。

 「22世紀アカデミー」で私が講義しているのは「プレゼンテーション」。情報システム構築は注文建築。エンジニアリングが確立していないため、人と人とのコミュニケーション、伝達からシステムは作られる。そこには「伝える力」が必要だ。齟齬を生まない力が。また、組織力を強化する、モチベーションを高める力が。

 そして、製品にしてもシステムにしてもサービスにしても「価値を伝える」「提案する」場がある。このときにも必要なのが「プレゼンテーション力」。他メンバのパワーと血と汗が製品などには滲んでいる。それを背負って“個人”が「価値を伝える」。重要であることは理解していただけるだろう。

 「プレゼンテーションは個人力」。それを磨くことは「個人のプレゼンス」を高めることになる。