今、全国で約6500人のITコーディネータ(ITC)が活躍中である。地方のIT産業を活性化したり中小企業のIT化を促進したりする目的で2001年に誕生した資格制度で、有資格者はITと経営の両方の知識をもつ。資格保有者は全国に点在し、各地方のITCたちはコミュニティをつくって、各地方のIT産業の活性化に共同で力を尽くしている。いわば、地方にいる中小企業のIT事情を知るエキスパートだ。各地域のITCは、それぞれの地場IT産業の今をどうみているのか。この連載では、各地方のITCが届けてくれた声、地方の現実を都道府県ごとに紹介する。(構成/木村剛士)
愛知県のITC
秋山剛 氏(豊田市)
2006年3月にITC資格を取得。ITコンサルタントとして、主に愛知県内の中小企業の経営支援を手がける。NPOのITC中部の活動にも協力している。
Q.自身の活動内容は?
A. NPOである中小企業基盤整備機構のスタッフとしてCIO(最高情報責任者)の育成支援事業に携わり、中小企業のIT化を進めている。また、NPOのITC中部では「マッチング事業委員会」を設置して、ユーザー企業に対してRFP(提案依頼書)の作成支援を実施。ITベンダーにそのRFPを提供して、ユーザー企業とITベンダーをつなげている。今は個別対応だが、将来的にはユーザーとITベンダーのコミュニティをつくりたいと考えている。
Q.県内IT産業の景気は?
A. いいと感じている。リーマン・ショック以降、IT投資を控えていたユーザー企業が、自社の業績が回復傾向であることを受けて、ITに投資するようになっていると肌で感じる。また、2014年を振り返れば、Windows XPのサポート切れによって、Windows XPでしか動作しないシステムのリプレース需要も高まった。総じて、愛知県内のビジネスは好調だ。
Q.地方のIT産業を伸ばすために必要なことは?
A. 地域や規模を問わず、ユーザー企業のITに対する関心は高いと思う。だが、資金力がない中小企業が、少ない投資で高いリターンを得るのは難しいのが実際のところだ。安価なパッケージであれば購入できるが、柔軟性に欠けていて自社の業務に合わないことが多く、逆に自社の業務に合わせたシステムを求めると高額になってしまう。
中小企業にとって理想的なITの選び方は、要望を簡潔にまとめたRFPをまず自社で作成し、それを複数のITベンダーに提供。各ITベンダーからプレゼンテーションを受けて、そのなかから最適な提案をしたITベンダーを選ぶこと。ただ、そもそも中小企業にはRFPをつくれる担当者が存在しない。この悩みを解決できるRFPの作成を手伝うことができるのはITCだと思うのだが、ITCは知名度がなさすぎる。中小企業のユーザーが気軽に相談できる窓口をたくさんつくる必要があると思う。
福岡県のITC
栗脇昭博 氏(福岡市)
2003年11月にITC資格取得。独立系ITCとして活動しながら、福岡ITコーディネータ推進協議会の会長を務め、ITCを目指す人への研修活動も行う。
Q.自身の活動内容は?
A. 経営とITの両方の知識をもつITCの特性を生かして、中堅・中小企業の経営コンサルタントを務めている。プロジェクトの推進支援や、業務改善、システム化の支援など、サービスを提供する範囲は多岐にわたる。福岡ITコーディネータ推進協議会の会長としては、「中小企業IT経営力大賞」(主催:経済産業省)の運営支援、IT経営に関する講演活動を行うほか、新しいITC育成のためのインストラクターも務めている。
Q.県内IT産業の景気は?
A. ほぼフラットという印象だ。下がってはいないと思うが、福岡県内のITベンダー数社と情報交換をしてみると、IT投資が増えているとか、ユーザーのIT導入意欲が高まっているというような声はほとんど聞かれない。また、地元のメディアの報道を見聞きしても、いわゆるアベノミクスによる経済効果を実感しているとの声は、福岡では聞こえない。
Q.地方のIT産業を伸ばすために必要なことは?
A. 福岡ITコーディネータ推進協議会に参加するITCは、ほとんどが企業に勤めるITC(企業内ITC)で、独立系のITCとして自由に活動できる人が少ない。企業内ITCであっても、優秀なら個人で活動できるような仕組みがあればと思っている。
また、ITCの知名度が低く、中小企業の支援団体との協業実績も少ないために、ITCがそのスキルを生かす機会に恵まれないのも課題だ。日本の地方都市のなかには、ITCと地元の金融機関や公共団体と協力して、中小企業のIT化を進めることで、結果的に地方を盛り上げているケースがある。ITCにとってはビジネス機会を得られ、中小企業はITによって生産性を向上できるという、双方にとってメリットがあるすばらしい取り組みだ。それらをベストプラクティスとして紹介する機会や、マッチングの機会を、ITコーディネータ協会(ITCA)が推進してくれると、とてもありがたい。