今、全国で約6500人のITコーディネータ(ITC)が活躍中である。地方のIT産業を活性化したり中小企業のIT化を促進したりする目的で2001年に誕生した資格制度で、有資格者はITと経営の両方の知識をもつ。資格保有者は全国に点在し、各地方のITCたちはコミュニティをつくって、各地方のIT産業の活性化に共同で力を尽くしている。いわば、地方にいる中小企業のIT事情を知るエキスパートだ。各地域のITCは、それぞれの地場IT産業の今をどうみているのか。この連載では、各地方のITCが届けてくれた声、地方の現実を都道府県ごとに紹介する。(構成/木村剛士)
石川県のITC
横屋俊一 氏(金沢市)
2012年にITC資格を取得。中小企業へのIT経営支援活動ほか、NPO法人の石川県情報化支援協会と福井県情報化支援協会の活動にも協力する。
Q.自身の活動内容は?
A. ユーザー企業との出会いの場を多くつくるために、ユーザー企業向けセミナーを積極的に実施している。セミナー開催後は、参加したユーザー企業向けの経営支援や専門家派遣事業につながり、成果を出している。ITC向けにはスキル向上のためのイベントや支援ツールの開発・提供を手がけている。また、地域のIT産業活性化に向けた取り組みとして、年1回はユーザー企業や支援機関、ITベンダーが集まる大型イベントを開催している。
Q.地域のIT産業の景気は?
A. フラットな印象だ。ただ、政府の中小企業に対する手厚い支援制度が後押ししたのか、昨年頃からユーザー企業の一部は、IT化を含めた前向きな投資を始めている。このニーズをしっかりとつかんでビジネスにできるかどうかは、ITベンダーやITCの力量次第。結局のところ、ビジネスは経済全体が上向いているかどうかではなく、各企業・ITCの努力によって変動する。
Q.地方のIT産業を伸ばすために必要なことは?
A. どの資格も同じだと思うが、ITCの資格は「足の裏についた飯粒」のようなもので、取っても食えるわけではない。取得してからが勝負だ。
ITCの資格を巡っては、「認知度が低い」「国家資格でないから力が弱い」「会社のキャリアパス制度の対象だったからとりあえず取得しただけ」というようなネガティブな声が多い。このような現実からみえてくる課題は、ITCの資格を取得すれば、ビジネスが伸長するという成功モデルが不十分であることだろう。
全国、とくに地方で成功・活躍するITCをみつけ出し、そのスタイルを広めてもらいたい。それをもとに、全国のITCがスキルを高め、ビジネスモデルを確立するような仕組みがほしい。そしてもう一つ大事なことは、ITCの意識改革。「苦労して取得した、すばらしいITCの資格を自分の人生に生かすんだ!」という強い気持ちをもってほしい。
大阪府のITC
川野太 氏(大阪市)
2002年にITC資格を取得。経営・IT戦略の立案を行う。ITコーディネータ協会の届出組織である一般社団法人のヒューリットMFの活動にも携わる。
Q.自身の活動内容は?
A. ITCの仲間と共同設立した一般社団法人のヒューリットMFを通じて、独立中立の立場から、ユーザー企業にとって最適な経営・業務システムの企画・構築・運用を行っている。ITCではあるが、各メンバーの得意分野を生かして、ITのことだけでなく、経理や営業、製造管理など総合的にサポートしている。プロジェクト推進過程で社員の意識改革などを行い、プロジェクトが終了した後でも「自ら成長を続けられる組織」の構築を提案している。
Q.地域のIT産業の景気は?
A. 上向いている。製造業を中心にITを積極的に生かそうとしている。ユーザー企業からRFP(提案依頼書)作成のための支援依頼が昨秋から大幅に増えている。小売・卸売業では、ウェブを活用した販路構築などの相談を、とくに小規模事業者から受けることが増えた。中堅企業や行政機関からは、個人情報保護対策を中心に、セキュリティに対する要望が多い。
Q.地方のIT産業を伸ばすために必要なことは?
A. ヒューリットMFでは、5年ほど前から地域のユーザー、ITベンダーとITCとの接触機会を増やすために、「HRITMFソリューションコラボ」と題したソリューションの紹介セミナーを年2回ほど実施している。
また、中小企業の経営者やIT担当者の意識改革などを促す勉強会を、「HRITMFイブニングセミナー」と題して、毎月1回、平日の夜に開催している。さらに、地域の信用金庫と連携し、信金の顧客企業のIT化を提案・促進する活動も行っている。関西地域のICT関連団体とは定期的に情報交換をしていて、複数の団体や企業と触れ合う機会を設けている。
ただ、複数の組織が共同で何かを行おうとすると、組織の壁に突き当たることが多々ある。また、地方公共団体の活動が関連省庁の年度予算に全面的に左右されるため、複数年度や年度をまたいだ支援ができず苦慮している。複数の地域団体が協力することで、長期プランを実行できるような仕組みがほしい。