目標実現の阻害要因を取り除くロードマップ

　「世界最先端IT国家創造宣言」の改定内容をみると、当初の目標実現に向けた阻害要因を洗い出し、その解決のためのロードマップを整備してより説得力のあるビジョンに仕上げようと試みたといえそうだ。

　例えば、IT投資の直接効果が年間1兆～1.5兆円、経済波及効果が5.5兆円ともいわれるオープンデータの推進については、府省横断の共通カタログサイトを整備し、国が率先してオープンデータの流通に取り組む姿勢を示した。

　さらに、ビッグデータ利活用の大きな障害となっているパーソナルデータの取り扱いについても、規制緩和を進めるべく、昨年6月に公表した「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」をベースに、今国会中の個人情報保護法改正を目指している。とくに経済産業省は、データ活用による新産業創出などの観点から、「オプトアウト」（パーソナルデータの第三者への提供を本人の意思で停止できる）の手段を確保できさえすれば、本人の同意なしにパーソナルデータを第三者に提供できるようにすべきと主張していて、この考え方は大綱や、法改正の骨子案に反映されている。

　従来は、経産省と、こうした規制緩和に慎重だった法務省や総務省などとの綱引きが続いていた。しかし、国のIT施策の司令塔である高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部（IT総合戦略本部）の事務局を務める内閣官房情報通信技術（IT）総合戦略室の濱谷健太・参事官補佐によれば、「IT総合戦略本部が議論をリードしたこともあって、道筋が定まった」という。

問われるIT総合戦略本部のさらなるリーダーシップ

　ただし、IT総合戦略本部のリーダーシップが十分に発揮されているとはいえない領域もまだまだあるのが現実。その代表例が、マイナンバー（社会保障・税番号）制度だ。

　マイナンバーは、幅広い分野で利活用が進むほど、社会全体の生産性向上に寄与することになるが、個人情報の漏えいリスクは高まるため、慎重論も根強い。ただ、これは技術で解決できる問題ともいえる。最もやっかいなのは、関係者間の利害調整だ。

　システム改修の費用を誰がどの程度負担するのか、セキュリティについては誰が責任をもつのかなど、議論すべき課題は多い。事実、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会からなる三師会は、マイナンバーを医療情報と紐づけることに明確に反対していて、医療分野専用のIDが必要だと主張している。また、中央省庁のオペレーションの観点から、関係省庁間で、所管する業務の範囲をどう割り振るのかといった問題もクリアしなければならない。IT総合戦略本部には、粘り強い調整が求められる。（本多和幸）