
富士通研究所
村瀬有一
主管研究員 この連載の最終回で取り上げるのは「指輪型ウェアラブル端末」だ。指輪にセンサを内蔵し、指の動きで機器を操作したり、情報をディスプレイや眼鏡型ウェアラブル端末に表示させるというもの。
指輪型ウェアラブル端末が日本で一躍有名になったのは、ログバー(吉田卓郎代表取締役)が開発した「Ring」(写真参照)が登場したからである。同製品は独自に開発したジェスチャー認識エンジンを搭載。指を動かす“ジェスチャー”をセンサで読み取り、スマートフォンの専用アプリ経由で、照明を点灯させたり、テレビの電源を入れるなど、さまざまな操作系の機能を装備している。この4月30日には従来製品に比べてジェスチャー認識率で3倍、反応スピードで10倍ほど高めた新製品の出荷を始める予定だ。
また、富士通研究所はビジネス用途に焦点を合わせた指輪型ウェアラブル端末の開発を進めている。ビジネス用途では工場やビルディングなどでの設備保守を想定しており、保守対象となる設備や機材の情報を“指の操作”で呼び出したり、簡単な手書きメモを入力できる。例えば、保守対象の設備・機材に無線タグを取りつけておき、指輪型ウェアラブル端末を近づけるとタグの情報を読み取って、眼鏡型ウェアラブル端末のディスプレイ部に関連する作業マニュアルを表示するといった使い方を想定している。
手書きメモ入力機能は、デジタル作業手順書のチェックリストに印をつけたり、簡単なメモ書きを指の操作で記入できる。空中に文字を書くようなイメージで指を振ると、その指の動作から漢字やアルファベット、数字などを認識する。富士通研究所では、「からだの無意識な揺れと文字を書く指の動作を、独自のアルゴリズムによって分解し、文字を書く指の動作だけ抽出する」(村瀬有一・ヒューマンインタラクション研究部主管研究員)ことで、文字認識率を95%余りに高めた。
指輪型ウェアラブルの課題は、ハンズフリーで使えるディスプレイの未熟さだろう。スマートフォンを片手に持って操作するようでは、直接スマートフォンの画面を指で触って操作したほうが速いし、簡単だ。指輪型ウェアラブル端末が本当に真価を発揮するには、高性能な眼鏡型ウェアラブル端末、または高次元で現実とバーチャルの融合表示が可能なヘッドマウントディスプレイ(HMD)との組み合わせによる完全ハンズフリー環境の実現が欠かせない。(安藤章司)

ログバーの新型「Ring」