米IBMの新しいテクノロジーとして、最も注目されているのが人工知能の「Watson」だ。今年2月に、ソフトバンクテレコムとの提携を発表し、日本語対応と日本市場の開拓にも本格的に乗り出すことを明らかにしたのは記憶に新しいが、グローバルでのビジネスはどの程度進捗しているのか。米IBMでWatson事業のCMOを務める、スティーブン・ゴールド・パートナープログラム/ベンチャーインベストメント/IBM Watsonグループ担当バイスプレジデントに聞いた。(本多和幸)
スティーブン・ゴールド
パートナープログラム/ベンチャーインベストメント/IBM Watsonグループ担当バイスプレジデント、Watson CMO
──IBMはWatsonのビジネス上の価値をどう位置づけているのか ゴールド 「Systems of Record(SoR)」と「Systems of Engagement(SoE)」を融合させ、「Systems of Insight(SoI)」を実現するというのが、IBMの新しい基本戦略。おおまかにいえば、SoRとは、基幹系などの従来の業務システムを指し、SoEは、モバイル、ソーシャルなど、コミュニケーション系を中心とした比較的新しい領域のシステムを指す。つまりは、レガシーな業務システムに蓄積された構造化データと、SNSなどの普及で爆発的に増加した非構造化データを融合して分析することで、ビジネス上の意思決定に役立つシステムを提案するということ。自然言語を理解して学習するWatsonは、非構造化データの分析で圧倒的な能力を発揮し、こうしたコンセプトを支える重要なシステムといえる。
──グローバルでは、北米を中心にすでにビジネスも動いている。 ゴールド ソフトウェアの再販プログラムである「Software Value Plus」の対象になっていて、パートナーのビジネスも拡大しつつある。パートナーは、リセラーとデベロッパーの2種類がある。リセラーはすでに100社ほどになっていて、ライフサイエンスやエコロジーなどの分野で、Watsonを使った分析ソリューション「IBM Watson Explorer」をベースにした提案をしている。
一方で、デベロッパーは180社ほどになっているが、このエコシステムはまだ1年くらいの若い集団。彼らがアプリを書いてWatson上で実装する件数が増えてきたのも、最近のことではある。こうしたパートナー自身が従来から強みをもつ領域で力を発揮してもらうことで、IBMが注力分野として規定している、ヘルスケア、リテール、ライフサイエンス、金融、旅行など、26業種を満遍なくカバーできる体制が整ってきている。
──エコシステムが拡大すると、IBM自身のソリューションと似たようなパートナーソリューションも出てきて、競合することもありそうだが……。 ゴールド Watsonに限らず、IBMはさまざまなパートナーシップを結んでいて、事業領域が一部重なる企業と協業することもある。しかし、IBMが戦う土俵とパートナーが戦う土俵は違う。市場がこれだけ複雑化しているなかで、パートナーには、業種業態特化の専門的なナレッジを生かして、顧客の課題を解決する提案を行ってもらうことが重要だと考えている。