ITベンダーにとっての「マイナンバー(社会保障・税番号)」ビジネスの難しさは、「どこまで継続性があるのか」という点だ。事業に継続性が乏しければ、マイナンバー関連で固定的な人員を配置したり組織を維持したりすることは難しく、一過性で終わってしまう。すべての民間企業に幅広く関わってくる「給与分野」は、「業務システムにマイナンバーを取り込むフェーズを過ぎれば、あとは特段やることはなくなる」(SIer幹部)とみられているため、なおさらである。
一部大手の民間企業では、マイナンバーの管理をITベンダーにアウトソーシング(BPO)する動きもあるが、作業工数がかさむのは、そのユーザー企業の従業員からマイナンバーを預かる際の「本人確認」の部分であり、一度、預かってしまえばシステムで管理を自動化することができる。新入社員や中途採用、退職などで従業員の入れ替わりがあったとしても、制度がスタートした後なら、「必要書類に氏名や連絡先を書き入れるのと同じように、本人にマイナンバーを記入してもらう」ことで、煩わしい番号収集の手間はなくなる。
ただ、スーパーやコンビニ、外食といった流通・サービス業種は、入れ替わりが激しいパートタイマーやアルバイトを多く雇用していることもあり、「正社員中心の企業より、マイナンバー収集の手間は想像以上に大きい」(マイナンバーBPOを手がける日本情報産業の室田文雄・営業本部第二営業部長)ことから、ITベンダーにマイナンバー管理を委託する動きが活発で、実際に引き合いも好調だ。
一方、「金融分野」は比較的継続性が見込みやすい。野村総合研究所(NRI)は、「給与分野」は従業員と扶養家族を合わせて約1億1000万件の収集件数であるのに対し、「金融分野」は、証券や銀行口座、保険などの契約件数にほぼ相当することから3億4000万件に達すると推計している。折しも銀行の預金口座にマイナンバーを適用する改正法案が成立する見通しであることから、金融分野はマイナンバー関連のシステム需要が継続する有望市場。NRIも「金融分野は重点領域」(渋谷直人・新事業企画室長)と位置づけている。
マイナンバーは、国民の資産状況を把握することで、課税対象の捕捉率を高めたり、公的扶助の適正化を図ったりする効果が期待されている。今後は、例えば相続の関連で戸籍や不動産にマイナンバーが振られたり、健康保険にマイナンバーを活用する動きが出てくれば、自治体や金融(保険)の分野で、再度のシステム更改やBPOサービスに対するニーズが出てくるはず。マイナンバーはITベンダーにとって「継続性」がある領域と、「一過性」の側面が強い領域に分かれる点に留意する必要がありそうだ。(安藤章司)