メインフレームコンピュータの登場から今日まで、IT/ICT業界はP2P(Peer to Peer)型の分散システムとC/S(クライアント/サーバー)型の集中システムとの間を行ったり来たりしながら、その市場規模を拡大してきた。
メインフレーム(集中)は、コンピュータの小型化とイーサネットの発明によるUNIXコンピュータ(分散)─ダイヤルアップ技術とWWW技術の導入によるISP(Internet Service Provider)をサーバーとするシステム(集中)─ブロードバンドシステムの導入によるユーザー端末を用いたP2P型ファイル共有システム(分散)─HPC/Gridコンピューティング技術を用いた情報加工・検索工場型C/Sシステム(集中)─LTEやWi-Fiなどの高速無線通信インフラの展開によるP2P型モバイルシステム(分散)─データセンターと仮想化技術を用いたSDNやNFVを含むモバイル・クラウドシステム(集中)──と、七つの世代を経験してきた。
では、第8世代は、どのようなシステムになるのだろうか? 現在はC/S型なので、次はP2P型になると予想できる。事実、機械学習とビッグデータ解析技術の導入、IoT(Internet of Things)の進展と展開によって、フロントエンドにはP2P型が進行している。
コンピュータの計算能力、記憶能力、重量の三つのパラメータの変化を考えると、計算能力と記憶能力はほぼ10年で10倍に、重量はほぼ10年で10分の1に進化してきた。ボタンくらいの大きさのモジュールに、十分な記憶能力と機械学習やビッグデータ処理が可能なコンピューティング能力が実装可能になりつつある。インテルが昨年発表した極小コンピュータの「Edison」などは、その典型例だ。このような高性能なモジュールが、すべてのモノ(Thing)に導入され、相互に連携しようとしている。すなわち、Edge-Heavy Computing環境とM2M(Machine to Machine)環境の登場である。
これは、企業システムにおけるハイブリッドなクラウド環境と捉えることもできる。すべてをパブリッククラウドに置くのではなく、オンプレミスも戦略的・計画的に活用するという形態だ。すなわち、われわれは今、次の新しいP2P型システムへの挑戦を経験しようとしているのではないのだろうか。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。