不動産や投資信託の業務に強いTCO(テシオ)。会社名は“手塩にかける”に由来する。設立は2014年7月という若い会社でありながら、土井敏宏代表取締役を含む6人のメンバーは不動産や投資信託の業務に精通していて、不動産ファンド関連で強みを発揮している。営業部隊はもたないが、「社員の顔を売れば、仕事の依頼は先方からやってくる」と土井代表取締役は断言する。それゆえ、会社の規模を大きくするよりも、強みを磨くことに注力している。(取材・文/畔上文昭)
Company Data会社名 TCO
所在地 東京都港区
資本金 950万円
設立 2014年7月
社員数 6人
得意分野 不動産、投資信託
事業概要 システム開発、プロジェクトマネジメント、コンサルティング
URL:http://www.tcox2.co.jp/ 得意とする分野に注力

土井敏宏
代表取締役 TCOは、4月1日、投資家向け不動産投信情報ポータルで知られるJapan REITとの提携を発表した。Japan REITは不動産関連のSIも手がけていることから、TCOにとっては競合でもある。両社が提携したのは、それぞれの人材とノウハウを結集し、不動産情報管理のプラットフォームを共同開発するため。同プラットフォームは、上場不動産ファンドの運営会社がファンドの管理に使うためのシステムとなる。今年の秋にはローンチを予定している。
TCOは元請けとして不動産関連のSIやコンサルティングを手がけているが、Japan REITとの提携のように、案件によって柔軟に対応することを方針としている。「例えば、IaaS上にシステムを構築するとしても、ノウハウがない。そのため、IaaSの運用やセキュリティ対策を得意とするITベンダーにその部分は任せることにしている」と土井代表取締役。TCOとしては、得意とする分野に注力することに価値を見出すという考えだ。
土井代表取締役は、不動産ファンド関連のシステムに10年を超える経験をもつ。会社の新規事業として、不動産分野への参入を決めたときに担当したのがきっかけだった。「当時は不動産投資信託(REIT)向けのシステムがなかった」と、土井代表取締役は振り返る。IT化が遅れている業界だった。大手SIerが参入しそうな市場だが、開発の規模が小さいうえに高い専門性が要求されることから、どこも敬遠していたことが幸いした。
ドキュメントよりもスピード
TCOのSI手法は伝統的でありながら、スピードを意識して独自性を加えている。
SIで採用しているのは、ウォーターフォール型である。ただし、伝統的なウォーターフォール型とは違って、ドキュメントを極力省いている。「例えば、アジャイルは、何をもって終わりなのかの境目がグレー。ウォーターフォール型はSIerとしてリスクをヘッジできる。ユーザーとがっちり組むには、ウォーターフォール型のほうが噛み合う。ただし、仕様書などのドキュメントはなくてもいい。ドキュメントを重視するとスピード感を損なってしまう」と土井代表取締役はTCOの開発方針を説明する。ただし、議事録は重視していて、必ず顧客に提出するという。後は、ソースコードをみればわかるという考え方だ。
未開拓分野はまだある
TCOが会社の方針として重視するのは個人の“発信力”だ。その理由を土井代表取締役は次のように語る。「ITベンダーが業界のなかで、いかに顔を売るかだ。名前が売れれば仕事がくるので、営業担当の人材がいなくても間に合う。社員が業界でスタープレーヤーになれば、“あの人に相談したらおもしろそうなものができそう”ということになる。個人名で勝負したい。実際、当社のような小さい会社にユーザー企業が頼ってくる」。
多くの社員を抱えて、みんながスタープレーヤーになるのは簡単ではない。TCOがむやみに社員を増やさないことを方針としているのは、そのためだ。ただし、社員数が少ないと大型案件への対応が難しいと考えるのが、一般的。これに対し、土井代表取締役は「アプリから上しかやらない。上から下まで、全部をカバーしようとは考えていない。小規模のSIerでは獲得できる案件に限りがあると思われがちだが、得意分野をもつ企業と提携すればいい。当社はインフラなどでしがらみがない分、最適な提案ができる」と考えている。社員がスタープレーヤーになることに注力し、インフラ構築などの不得意分野には手を出さないという方針だ。
大手SIerが参入しない分野を開拓したTCOだが、不動産関連に固執するつもりはない。「規模は大きくないけれども専門性が強すぎて大手SIerが参入しない分野は、ほかにもあると考えている。そこを攻めていきたい」と、土井代表取締役は語る。新たな分野を開拓する場合でも、業界全体を変えるようなメッセージを発信するスタンスでポジションを確保したいと考えている。