広大な敷地で農業や畜産業が営まれる北海道は、GPSを活用してトラクターの自動運行を実現するなど、ITを活用した効率化への期待が大きい。また、第一次産業を担う人材が不足していることも、IT活用の追い風となっている。ただし、第一次産業で定番となるソリューションがまだなく、IT投資の予算も限られるため、大手SIerがほとんど参入していない。そこに目を付けたCSソリューションは、第一次産業向けのソリューションの研究開発部門を社内に設置。人材育成の場としても活用している。(取材・文/畔上文昭)
チーム制と長期契約で成長
CSソリューションは2004年の創業以来、大手SIer向けにSES(System Engineering Service)を提供してきている。こだわってきたのは、チームで作業ができる案件を獲得するということ。「一人だけが現場で作業をするような契約では、なかなか人材が育たない。チームで作業をすることによって、マネジメントも経験できる」と、CSソリューションの渋谷良治・代表取締役は考えた。また、人材育成の観点から、半年や年単位など、できる限り長期の契約を求めている。この方針が奏功し、「長年担当している業務知識が増えてきて、客先からいろいろな相談を受けるようになった。少しずつではあるが、上流工程も任されるようになってきている」と渋谷代表取締役は語る。

渋谷良治 代表取締役(左)と庄内道博 取締役研究開発部門を設置
顧客に深く入り込むのは、人材が育ち、経営的にも安定するというメリットがあるものの、現場の担当者がマンネリ感を抱きがちだ。CSソリューションでは、5年をめどにローテーションをする方針にしているが、受注案件だけでは新しい技術の習得が難しいなど、エンジニアとしては不満が残りがち。そこで設置したのが、研究開発部門だ。
きっかけは、畜産業者から肉用牛の体重を秤(はかり)以外の方法で計測できないかという相談を受けたこと。国の補助金が付く、実証実験プロジェクトでもあった。構築したシステムは、同じ場所で牛を撮影することで、前回撮影の写真との違いから、体重を推定するというもの。撮影環境に大きく依存することから、結果的には肉用牛の体重を正確に計測することはできなかったが、これを契機に大学や研究機関、農業関係者からの問い合わせがくるようになる。受注した実証実験は12件になるという。これを担うのが研究開発部門だ。
「研究開発部門は、机上での勉強だけでなく、SI事業として、システムの企画から設計、開発、構築、導入、保守、運用までを考慮して研究を進めている。エンジニアが新しい技術を習得するための人材育成の場としても、活用していて、人材のローテーションの一環としても機能している」(渋谷代表取締役)。
多くが実証実験ということもあり、これまでは研究開発でとどまっているが、今後は開発した製品やシステムを実用化し、自社製品として販売につなげることを目指している。「第一次産業では個人や小規模生産者が顧客となるため、大手SIerがほとんど参入していない。しかも、意思決定と行動力にスピードが求められることから、当社にチャンスがある」と、渋谷代表取締役は考えている。
社会インフラ系にも期待
研究開発部門を抱えているとはいえ、CSソリューションの事業はSESが中心。エンジニアの多くは客先に常駐している。現在のところは案件が多く、人手不足の状態だが、このままでいいとは考えていない。
「派遣法の改正で、派遣契約から委託・準委託契約への移行が進むと考えている。派遣業務を委託・準委託業務に偽装するのではなく、本当にSIerとしてシステム開発を遂行できなければならない。しかし、これまで大手SIerが受注していた案件は、まだ当社には十分なノウハウがないことから、元請けとして獲得するのは難しい」と、庄内道博・取締役は判断している。また、「クラウドサービスの普及などの影響もあって、スクラッチの開発案件が減っている」(庄内取締役)とも感じているという。研究開発で得たノウハウを生かし、大手Slerが参入しない分野に注力するのはこうした背景を考慮してのことでもある。
「幸いにも、これまでの研究開発による人材育成の成果として、組み込み系や制御系の知識と技術力が蓄積できている。農業をはじめとする第一次産業だけでなく、通信や自動車、航空、ロボットなど、社会インフラ系の業務でも、研究開発で得たノウハウが生きる」と渋谷代表取締役。十分に商機があると考えていることから、今後もエンジニアを積極的に採用し、社内で育てていく方針を固めている。