「道外の案件しかやらない」。札幌市に本社を置くデジックは、地元の北海道ではなく、東京や大阪などの都市部を中心とした道外案件に注力している。いわゆるニアショア開発である。新興国の人件費高騰、都市部のエンジニア不足などを受け、ニアショア開発のニーズが高まっている。中村真規・代表取締役社長は、道外案件への注力を「外貨を稼ぐ」と表現する。道内の案件をこなすよりも、道外に活路を見出してこそ、北海道の振興に役立つという考えだ。(取材・文/畔上文昭)
Company Data会社名 デジック
所在地 北海道札幌市
資本金 9000万円
設立 1987年8月
社員数 154名
事業概要 システム開発、制御ソフトウェア開発、組込ソフトウェア開発、ホスティングサービスなど
URL:http://www.dgic.co.jp/ メリットは距離があること

中村真規
代表取締役社長 地方のSIerには、大きく二つの役割がある。一つは、地域の企業や団体のIT化を推進すること。もう一つは、東京などの都市部から案件を受注すること。デジックが選んだのは後者だ。これを中村社長は「外需依存型の事業」と呼んでいる。
「ニアショア開発のニーズは確実にある。例えば、札幌で開発する当社が請け負えば、東京よりも1割は安くシステムを開発できる。しかも、品質は変わらない」と、中村社長は札幌でのニアショア開発のメリットを語る。問題があるとすれば、発注者との間に物理的な距離があるということ。オフショア開発を進める場合のことを考慮すると、言葉の壁も文化のカベもないことから、ニアショア開発のほうが確実に案件を進めやすいが、打ち合わせをしたくても簡単に集まることができない。
これに対し、中村社長は「距離があるのはハンディキャップになるが、いまはメールで十分にやり取りができるし、テレビ会議も手軽に使える環境にある。むしろ、距離があることによって、互いの認識にズレがないように取り組むので、仕様がはっきりするなどのメリットがある」という。
開発案件はなくならない
システム開発を請け負うにあたって、デジックにはいくつかのこだわりがある。一つは、「取引先は大手企業に限る」ということ。発注者を選ぶというわけだ。「当社で取引先の信用調査が十分にできるとは限らない。名の知れた大手企業であれば、ある程度の信用力をもっている」。
大手企業にこだわるのは、エンジニアのためでもある。「大手企業の案件には先進性があり、エンジニアが育ちやすい環境にある。それと大手企業の場合、誰もが知っているような事業が多く、エンジニアが仕事内容を友人などに説明しやすい。“あの事業を支えるシステムを開発した”と説明できるので、エンジニアのモチベーション向上につながる」というわけだ。
もう一つのこだわりは、業務系システムの開発はやらないということ。「当社が請け負うのは、電力や航空、鉄道など、社会インフラ系が中心。これからの社会インフラを支えるのは、間違いなくIT。飛行機に乗るにも、予約から搭乗、降機までのあらゆるところでITが活用されている。これは今後もなくならない」と中村社長は自信をもっている。
ちなみに、開発案件がなくならないのは「社会インフラ系に限った話ではない」という。「人間の欲望に対し、試行錯誤しながら答えを出すのがIT。欲望は単一化しない。つまり、パッケージ化できない部分がある。便利にするためのアイデアも尽きない。そこでは必ずシステム開発がついてくる」。将来、開発案件がなくなるとの不安は、まったくないという。
“上流志向”は追求しない
デジックは、大手ユーザー企業や大手SIerからの受託開発に専念している。そこに同社の役割を見出している中村社長は、「上流工程を請け負うといった“上流志向”はない」と迷いがない。大手SIerの下請けを中心としている企業では、案件が終わるごとに次の仕事を探すという不安定な状況を嫌いがち。そのため、上流工程から入る元請けとなるべく、上流志向をもつのが一般的だ。または、パッケージやサービスの開発を進めるというケースも多い。ところが、デジックはそれらを目指さない。
「料理にたとえるなら、上流工程を担う上級SEは、レシピをつくるのが上手でもシェフではない。また、レシピが同じでも、ベテランのシェフによる料理と素人の料理では、味がまったく違う。当社は、ベテランのシェフを目指している。同じ仕様でも、品質が違うというわけだ。それが日本のIT産業が生き残るために必要なポイントとなる。当社の強みは、外国人にはマネのできない品質にある」。ニアショア開発を推進するデジックとしては、オフショア開発への対抗意識も強くもっている。なお、デジックは現在、新卒採用を中心としていて、中途採用を行っていない。同社の考えをしっかりと受け継ぐエンジニアを育てていきたいとの考えからだ。