2013年度(2014年3月期)に制度運用を開始した富士通のセキュリティマイスター認定制度は、すでに一定の成果が出始めている。富士通が目指すセキュリティ人材育成のかたちがみえてきた。(本多和幸)

奥原雅之
センター長 前号で、富士通は2016年度中に、フィールド領域580人、エキスパート領域100人、ハイマスター領域20人のセキュリティマイスターを認定するという目標を掲げていることを説明した。15年11月11日現在、フィールド領域は584人の認定実績があり、すでに目標を前倒しで達成している。一方で、エキスパート領域は71人、ハイマスター領域は4人と、高度なセキュリティ人材ほど、まだ認定実績が少なく、育成が遅れている傾向があるといえそうだ。
しかし、奥原雅之・セキュリティマネジメントサービス事業本部サイバーディフェンスセンターセンター長は、「富士通にとっては、必ずしもハイマスターが最上位のカテゴリというわけではない」と話す。
「ハイマスターの認定が遅れているようにみえるだろうが、これは努力だけでなく、ある程度素養をもっている人間でなければ認定を取得できない。無理に増やそうとしても意味がなく、制度を通じて目指す人が増えれば、全体のレベルの底上げにはつながると考えている。また、富士通がセキュリティ人材の育成で目指しているのは、ハイマスターを増やすことではない。すでに目標を達成したフィールド領域の人材が育っていることこそが富士通の強み。お客様と接する機会が多い普通のシステムエンジニアが、セキュリティに関する知識とスキルを磨き、お客様の業務を守る体制を整えている」。
まさに、フィールド領域のセキュリティ人材を厚くすることこそが、富士通が目指すセキュリティ人材育成の本質というわけだ。一方で、ハイマスター領域の人材が、セキュリティに特化した高い能力をもつ希有な人材であることも確か。しかし、現状では、その能力の高さに応じた報酬や待遇が整備されているわけではない。「総合ITベンダーの富士通ならではの仕事ができることは、エンジニアにとって報酬とは異なるモチベーションになるはず」(奥原センター長)とはいうものの、せっかく育った人材が他社に流出してしまうリスクを考慮すれば、何かしらの制度設計をする必要はありそうだ。