「グローバル経営層スタディ(C-suite Study)2015」と題した分析結果が、IBMから発表された(
http://www-935.ibm.com/services/jp/ja/c-suite/)。この報告は、世界の5247名の経営者との対面インタビューによる回答結果をとりまとめたユニークなものだ。これをみると、経営者は、ビッグデータ解析と先端IT技術の利用先として(1)経営判断の客観的指標、(2)組織改革・ビジネスプロセス・意思決定構造の改革のための客観的指標、(3)顧客との接点の強化、を挙げている。日本におけるビッグデータの利用法が「改善」に偏っていると思うが、グローバルでは「改善」ではなく「改革」であるということを認識する必要がある。さらに、「デジタル・インヴェーダ(Digital Invader)」と呼ばれる、他産業からの参入者や競合と分類されていないプレーヤの参入に脅威を感じていると報告されている。既得権益の崩壊をビッグデータに代表される最先端のデジタル技術が加速させていると認識されているようである。企業経営に最も影響を及ぼす外部要因としては、12年から「テクノロジー」が第1位となっており、最近は「法規制」が急に順位を上げている(15年は「市場の変化」に続いて第3位)。すなわち、インターネットの普及とデジタルデータ処理技術の進展は、これまでとは本質的に異なる次元のビジネス構造を産み出そうとしていると、世界の経営者は感じているようだ。
また、興味深い分析結果として、「プラットフォーム型」と「オープン型」のビジネスモデルへの関心が非常に強いことも報告されている。ビッグデータ技術や人工知能の応用、あるいは IoT(Internet of Things)の具体的なビジネス展開が、サイロ型あるいはストーブパイプ型のビジネス構造となっている実情を考えると、非常に興味深い。経営者は、理論的には「オープン型・プラットフォーム型」が今後のビジネス構造の方向性と考えている一方で、デジタル・インヴェーダへの警戒から、ローカルに閉じた「オープン型・プラットフォーム型」のビジネス構造を形成していると捉えられる。あるいは、これから、今のローカルな「オープン型・プラットフォーム型」となっているビジネス構造が、グローバル規模のすべての産業セグメントに跨るようなオープンなプラットフォームを形成すると捉えることもできるのではないか。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。