2020年に開催される東京五輪・パラリンピックのエンブレムが決定した。昨年、一度決まったエンブレムに盗用疑惑がもち上がって撤回されたことは記憶に新しい。このときの一連の騒動において社会の関心が著作権に集まったわけだが、ソフトウェアをはじめとするデジタル著作物の保護を訴えてきた私たちにとって、こうした著作権に対する関心が一時的なものに終わらず持続していって欲しいと思う。
ただ、著作権法の遵守ということについて、一般には理解不足があるように感じている。新年度が始まり、多くの企業で新入社員研修が行われただろう今、改めて著作権の基本的な考え方を説明しておきたい。
まず、著作権侵害・著作権法違反といえるのは、誰かの著作物を「勝手に」利用した場合だけである。「勝手に」という点がミソだ。「許諾なく」といい換えてもいい。つまり、誰かの著作物を利用したければ、事前に許諾を得ればいいのである。
熊本のマスコットキャラクター「くまモン」のイラストを利用したい場合、通常は利用申請のうえで許諾を得る必要があるが、平成28年熊本地震の復興を支援するための募金やチャリティーイベントで利用する場合に限り、許諾なく届出のみで利用できることになった。このように、利用条件については、著作権者が自由に決めることができる。
利用条件は、コピーして配布するのは許可するがインターネットにアップロードするのは禁止、といったように細かく決めることができる。コピー1部あたり100円といった金額を条件にしても構わない。ネット上には、自由に使える写真素材が公開されているが、よく見ると個人利用はできるが商用利用は有償といった使用条件が定められているものもある。
まとめると、他人の著作物を利用する場合は、許諾を得ること。事前の許諾が不要の場合でも利用条件に従うこと。これが著作物を利用する場合の大原則なのだ。そして、ソフトウェアも著作物である。ソフトウェアをインストールするためには、ソフトウェアメーカーと使用許諾契約(ライセンス契約)を締結し、その条件に従うことが必要だ。
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕

久保田 裕(くぼた ゆたか)
1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。