MVNO(仮想移動体通信事業者)の草分け・日本通信が、今年5月で創業20周年を迎えた。当初は企業で使いやすい料金・契約形態を武器にユーザーを伸ばしたが、最近は2008年に開始した「モバイル専用線」が、セキュリティ意識の高まりを受けて人気。今後はISDN代替やIoTのニーズを取り込むため、SIerとの連携をさらに拡大する。(日高 彰)
「格安SIM」のブームでここ数年盛り上がりを見せているMVNO市場。その第1号は、01年に日本通信がPHS回線を利用して開始したデータ通信サービスだった。当初は、定額制やプリペイドなど、経費として処理しやすい料金形態がビジネスユーザーのモバイル通信用としてヒットしたが、その後は組み込み通信モジュールや、より業種に特化した通信サービスにも事業を拡大している。
とくにターニングポイントとなったのが、08年に提供を開始した「モバイル専用線」サービスだ。当初のモバイル通信サービスが「場所を問わずインターネットに接続したい」といった需要に答えるものだったのに対し、モバイル専用線では、遠隔地に散らばったデバイスを、インターネットを経由せず社内システムに接続する。米国では、日本通信子会社のContour Networksが、モバイル専用線を使って金融機関のATMを接続するサービスを提供しているという。携帯電話網を通じて金融決済情報をやりとり可能としたことで、有線の専用回線を敷設できない場所にもATMが設置可能となり、設置から稼働までの時間も大幅に短縮された。

福田尚久
社長 日本通信の福田尚久社長は、「最近は多くの場面でますますセキュリティの重要性が高まっているほか、IoTのニーズもあり、あらためてモバイル専用線が評価される場面が増えている」と話す。インターネット経由の接続でよければ、安価なモバイル通信サービスがいくらでも出てきているが、業務システムに用いるのはセキュリティの不安が残る。実際に日本通信でも、あるキオスク端末をモバイルインターネット回線で結んだことがあったが、DDoS攻撃で上流が詰まってしまい、顧客のサービスが中断してしまった例があるとのこと。最近のIoTでは基幹業務や公共安全など、より機密性・重要性の高いシステムと連携するケースもあり、専用線前提の案件が増えているという。
もう一つ、このタイミングで同社がモバイル専用線に力を入れる理由としては、先般NTT東西が、ISDNのサービスを2020年以降順次終了すると発表したことがある。POSレジやクレジットカード決済端末、受発注システム、警備システムなど、ISDNが「専用線代わりの安価な通信回線」として使われている分野は現在でも無数に存在する。それらの多くは、高速・大容量な光回線ではオーバースペックであり、コスト・運用の両面でモバイル専用線が有効な移行先になる、というのが日本通信の見方だ。
昨年末には、NTTドコモとソフトバンクモバイルの2回線に対応したモバイルルータを発売し、信頼性も高めた。ISDN終了対策の切り札として、SIerや流通業に強いIT販社への提案を図っていく。(つづく)