FinTechという言葉が浸透してきた。今までにない大変化が起きたのかというと、実は特別なことが起きているわけではない。むしろインターネット金融サービスが出てきたときのほうがインパクトは大きい。FinTechとは、その時代に注目を浴びているテクノロジーを使い、新しい金融サービスを生み出すことであり、新しい名前をつけただけともいえる。多くの金融機関が取り組みを発表し新聞を賑わせているが、私のなかでは疑問が大きくなってきている。「サービスは本当に役に立つのだろうか?」
15年ほど前、今ではFinTechの代名詞である家計簿クラウドで活用されているアカウントアグリゲーションというサービスをリリースした。銀行口座、証券口座のID、PWをサーバーに登録すると自動で残高や取引明細を取得し、表示してくれるサービスである。車内から閲覧可能で、ATMに案内までしてくれるカーナビ用サービスだ。なんとFPと相談できる機能までつけた。先進技術の適用が過度になり、普通の人が使わないサービスとして出来上がってしまった。その時と同じ感覚を少し抱き始めている。
先日あるFinTechベンチャーを訪問した際に感じたことだが、彼らが開発しているファンドマネージャーの成績を超えようとする自動売買システムは、AIとしてはすごいのかもしれないが、金融業界の発展や投資家のために、どう役に立つのか疑問でならなかった。そもそも金融業界の課題解決に向けて技術が適用されていないのではないだろうか?例えば、欧米のプライベートバンキングでは最新のAI技術を用いたロボットが運用しているのだろうか?富裕層になればなるほど人が対応し、顧客のリスク性向や投資意欲などファジーな感覚を判断基準として、結果説明の可能なコミュニケーションをつくり上げている。むしろこれまで投資に関心がない層や、煩雑な手続きや日々の考察が単純化されることによって投資に踏み込めなかった層の障壁をシステムが解決し、新しい投資マネーを引き込み、マーケットの拡大を図っている。もちろん最先端を目指す動きがないと技術は発展しない、しかしその動きに惑わされ、一般投資家にむけたサービスを無意味に高度化させることは決してユーザーを幸せにはしないだろう。今一度技術とニーズとのマッチングを行いサービスを考えるべきではないだろうか。
事業構想大学院大学 特任教授 渡邊信彦
略歴
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)

1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。