ドイツの2大AUTOSAR開発ベンダーの1社であるエレクトロビットは、日本車向けAUTOSARビジネスの立ち上がりに手応えを感じている。これまで、同社では国内部品メーカーが欧州向けに出荷するECU(電子制御ユニット)に同社のAUTOSARを搭載する商談が中心だった。発注元である欧州メーカーがエレクトロビット製AUTOSARの搭載を要望、または推奨していることが背景に挙げられる。だが、ここへきて日本車向けのECUにもAUTOSARが採用される動きが出てきているのだ。(取材・文/安藤章司)
日本車向けのECUの多くは、独自OS、独自アーキテクチャで動いてきたため、これをAUTOSARに移植する工数がかかる。エレクトロビット日本の柳下知昭・オートモーティブ・ソフトウェア事業部技術部長代行は、「移植の初期フェーズから、実際に量産車へ実装するフェーズまでトータルで支援できるのが当社の強みの一つ」としており、日本車へのAUTOSAR採用の流れに乗ることでビジネスを伸ばしていく。
エレクトロビットの強みは、AUTOSAR発祥の欧州地場に本社を置き、ソフトウェア専業会社としてAUTOSAR開発コミュニティの発足当初から規格策定に関わってきた点にある。AUTOSARの主要コンポーネントのすべてを揃えており、自動車で欠かせない「ISO26262」にもとづく機能安全の実装にも業界に先んじて取り組んできた。昨年、M&A(企業の合併と買収)によって自動車部品メーカー大手のコンチネンタルの子会社となり、AUTOSAR開発を続けている。

写真左から堀部兼一・中部支店長、
柳下知昭・技術部長代行
ほかにもECUが改ざんされないようにする暗号化技術、ECUのマルチコアへの対応、イーサネットをベースとした高速リアルタイム通信の制御技術などの強みをもっており、「AUTOSARの中核的な技術に加えて、関連する技術でも先行している」(柳下技術部長代行)と胸を張る。
前述のように、欧州車向けに出荷する日本の部品メーカーのECUには、発注元からの要望もあって欧州ベンダーが開発したAUTOSARを採用する傾向が強い。今後は日本車向けのECUで、どうシェアを伸ばしていくかが、エレクトロビットの日本でのビジネス拡大のカギを握る。
どのベンダーのAUTOSARを採用するかの決定権をもつのは、大手部品メーカーであれば部品メーカー自身にあり、中小メーカーでは発注元の要望や推奨に従うケースが多いという。自動車業界の力関係を見極めながら、「どこに重点的な営業をかけるかで、結果が違ってくる」(エレクトロビット日本の堀部兼一・中部支店長)とみている。
エレクトロビットは、ベクターと並んでAUTOSAR発祥の欧州2大ベンダーとされるだけに、AUTOSARの開発では先行している。一方、日本国内のAUTOSAR開発ベンダーも3社存在しており、先行者としての強みを、今後どれだけ打ち出せるかにかかっているといえそうだ。