鹿児島県の奄美市では、平成27年7月より「フリーランスが最も働きやすい島化計画」を施策として展開している。同市は、九州と沖縄の間に位置する外海離島の奄美大島にある人口4万4000人の自治体である。従来の労働集約型の工場誘致やコールセンター誘致から、企業に依存しない個人の働き方であるフリーランス支援に重点をシフトした。
ICTの発達により都市部にいなくても可能な仕事が増えてきている。どのような仕事においても受注、生産、納品のプロセスが発生する。クラウド上で受注し、自分のオフィスで生産し、クラウド上に納品できれば、ネットがつながるところであれば、どこでも仕事ができる。
朝山毅市長は、市の伝統産業である大島紬の織り子が組織に所属しない働き方であったことをあげ、島にはフリーランスという働き方が馴じんでいると語っている。
人口規模の小さい地域では、都市部と働き方が異なる。勤め先の仕事をするだけでなく、人手が不足していればさとうきびの刈取りを手伝うことがあり、大工の手伝いをすることもある。集落での草刈り作業は、島に限らず地方で暮らすうえでは必須だ。地方では、単業でなく複業(マルチ・ジョブ)があたりまえになっている。自分でスケジュールをマネジメントできるフリーランスの働き方は、人口減少時代に適しているといえる。
フリーランスの働き方は、子育て中にも適している。子どもが小さい時には、常に臨戦態勢であるが、ある程度大きくなるとスキマ時間が発生する。しかし、スキマと呼ばれるだけに、働きに出るほどまとまった時間ではない。自宅で、あるいは託児施設のついたコ・ワーキングスペースで仕事をすることは働く機会を大きく増やす。
他方、フリーランスの仕事は簡単ではない。高度な技術をもち、自分で品質と納期のマネジメントができるからこそ、受注が可能になる。奄美市では、フリーランスとして働くことができるよう「フリーランス寺子屋」という独自の研修プログラムを用意して、技術の向上、時間管理、さらにコミュニティの醸成に取り組んでいる。「どこにいてもできる仕事、ここでしかできない暮らし」という市のメッセージが暮らしを優先する時代の到来を予感させる。島における働き方が最先端となる日も遠くない。
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市産業創出プロデューサー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。