技術力を強みとするSIerは多い。高い技術力は、先進性を求めるユーザー企業にとって魅力的だ。市場は確実に存在する。とはいえ、日々進化する技術を追うのは容易ではない。自信をもっていた技術力が、ハードウェアの進化によって不要になってしまうこともある。何に注力するのかの判断は、非常に難しい。ネクストスケープの小杉智代表取締役社長は、「最新の技術でおもしろい仕事をやる」をコンセプトにビジネスを展開している。そのためには顧客を選ぶという。ただし、最新技術の活用を目的とはせず、あくまでも手段だと考えている。(取材・文/畔上文昭)
技術力の維持は難しい
ネクストスケープは、小杉社長が学生時代に2人の知人と立ち上げた会社である。小杉社長は、大学の研究室でデータマイニングなどを研究していたため、当時からデータベースのスペシャリストだった。「卒業後はSIerに就職することも考えたが、データベースの知識や技術力を生かすには起業したほうがいいと判断した」と小杉社長。まずは、システム開発を手がけるSIerとしてスタートした。
小杉 智 代表取締役社長
転機となったのは、会社設立から2~3年後に顧客に言われた次のひとことだった。「御社にデータベースのチューニングを頼むよりも、サーバーを買い替えたほうがはやい」。業務システムのレスポンスを上げるには、データベースで使用されるSQL文のチューニングが有効となる。しかし、そうしたチューニングよりも処理能力の高い最新のサーバーにリプレースしたほうが、レスポンスが上がるというわけだ。
「技術を身に着けて努力しても、それを売り続けるのは難しい。不要になるのは速い」。以降、小杉社長は技術力を重視するも、それに頼るのではなく、ユーザーに使ってもらえるシステムの構築を追求するようになる。
感動を実現するシステム構築
システム構築では、ユーザー企業の要件を満たすことが求められる。それが一般的だが、ネクストスケープでは「要件を満たす」という考えを捨て、ユーザー企業と一緒に考えることを方針としている。合言葉は「客と融けろ!」だ。そして、目指すのは感動を実現するシステム構築である。
「例えば、ドーバー海峡のトンネル工事での有名な話。工事を担当した川崎重工が、役割を終えたトンネル掘進機を地上まで運び出すのではなく、地中に埋めて工期短縮とコスト削減を実現した。その掘進機を捨てるという発想ができるかどうか。そして、それを実現するには、顧客とともに考えて、こうあるべきと進言できるかどうか」と小杉社長は語る。社員にはビジネスの本質を見抜くことができる人材に育ってほしいと願っている。
人月商売からの脱却へ
ネクストスケープは、2009年に豆蔵OSホールディングス(現豆蔵ホールディングス)に参画した。きっかけはリーマン・ショックだった。
「会社の体力を超えるシステム開発案件を抱えすぎていた。そこにリーマン・ショックが起きて、金融機関からの融資が止まったため、豆蔵ホールディングスのお世話になった」という。これによって厳しい状況を脱したわけだが、小杉社長は豆蔵ホールディングスの傘下に入ったことをビジネス転換のチャンスと捉えた。以降、システム開発では王道である人月ビジネスの脱却を目指し、従量課金と成功報酬への転換に取り組んできている。
「現在でも人月で稼ぐシステム開発は当社の中核事業だが、豆蔵ホールディングスのなかでも同様の事業を展開する企業がある。であれば、当社にしかできない案件をこなすべき。当社が得意とする技術力、それも最新の技術を活用し、おもしろい仕事をこなす」ことを、小杉社長は会社の方針としている。実際、日本市場に競合がほとんどいない時期に、デジタルマーケティングに参入。最近では、農業ITやMR(Mixed Reality)も手がけている。
小杉社長によると、社内には新たな分野にチャレンジしようと意気込むエンジニアが多く、次から次へとアイデアが出てくるという。目指した事業転換が、思惑通りに進んでいるというわけだ。「大成功するマネージメントと、失敗しないマネージメントは違う」と小杉社長。失敗を恐れず、チャレンジする社風を大切にし、社員のアイデアをつぶさないことを心がけている。