会員企業が800社を超え、エンジニア数は約5万人というIT系団体では国内最大級の規模を誇る日本情報技術取引所(JIET)。「ビジネスの創出と良い取引の成立を目指して」のスローガンを掲げ、支部ごとに地域性を意識した活動を展開している。国内のIT産業は案件過多でエンジニア不足の状況にあるが、将来を見据え、海外展開や若手中心の交流会などの活動にも積極的に取り組んでいる。キーワードは「多様な選択肢」。就任4年目となる酒井雅美理事長に、そのねらいを聞いた。(取材・文/畔上文昭)
エンジニア不足は続くか否か
労働人口の減少や少子高齢化といった社会課題の解決策として、さまざまなビジネスシーンで「働き方改革」の取り組みが進められている。残業が多いと指摘されがちなIT業界においても、働き方改革が必要とされている。
酒井雅美
理事長
「今年は『働き方改革』を重要なテーマの一つとして位置づけている。少子高齢化が進む一方で、IT業界はエンジニア不足が続いており、人材の確保においては、働きやすい職場を提供できるかどうかが大きく影響する。システム開発の現場は、納期前などの追い込み時期では徹夜作業が一般的に行われてきた。これを改善するのは容易ではないが、社会全体が働き方改革に向いているため、それを追い風にJIETにおいても会員が働き方改革に取り組むためのサポートを考えている」と酒井理事長は説明し、会員のニーズに合わせて多様な選択肢を用意したいとしている。
実は、その多様な選択肢こそ、酒井理事長が推進するJIETの取り組みにおいて、重要な柱となっている。
「会員が800社以上、エンジニア数で5万人という大規模な組織ということもあって、いろいろな人が、いろいろな意見をもっている。JIETとして、すべての会員に最適な指針を出すのは容易ではない。むしろ、不可能に近い。例えば、JIETのスローガンに『ビジネスの創出』があるが、会員によって仕事のつくり方が異なる。答えは一つではない」。
SI業界は、案件過多でエンジニア不足の状態にあるが、この状況はいつまで続くのか。東京五輪後には案件不足でエンジニアが余るという意見がある一方で、エンジニア不足が続くという主張がある。同様に、多様な意見は随所にみられる。海外の人件費が上がったことで、これからはニアショア開発という意見があれば、まだまだオフショア開発という意見がある。首都圏の案件に注力するか、地域の案件に注力するか。元請けがいいか、下請けがいいか。派遣か、SES(System Engineering Service)か。これらをJIETとしてまとめ、方向性を示すのは難しい。
「だから、多様化を受け入れ、すべての意見に対応できる組織であることをJIETは目指す」と、酒井理事長は会員のニーズに対し、多様な選択肢で応えると説明する。
海外展開は双方向で
JIETは、酒井理事長の体制になってから、海外展開に注力してきている。既存のバンコク支部、台北支部に加え、年度内には韓国支部を設立する。そして、シンガポール支部の設立準備も進んでいる。
「海外にも支部を設立し、日本で取り組んできたJIETの活動を横展開していく。現地で商談会をして、ビジネスの創出につなげていく。また、海外支部は、日本からのオフショア開発の拠点としての役割に加え、海外から日本の企業が開発案件をいただくような逆方向も期待している。これについても会員に多様な選択肢を用意したい」。まずは、日本から近い東アジアを中心に支部を展開していくことを予定している。
多くの案件を抱えている会員にとって、「ビジネスの創出」に向けた取り組みは他人事として感じがち。とはいえ、いつ風向きが変わってもおかしくはない。多くのSIerがビジネスの創出を必要とするような時代の変化に備え、ユーザー企業や大手ソリューションプロバイダを巻き込んだ「CLUB JIET」の活動を強化するなど、JIETは国内外で将来を見据え、今後も積極的に取り組んでいく。