一般社団法人 みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴
松田 利夫(まつだ としお)

1947年10月、東京・八王子市生まれ。72年、慶應義塾大学工学部管理工学科卒業。94年から山梨学院大学経営情報学部助教授に就任し、現在、同学部教授。00年11月、きっとエイエスピーを設立し、代表取締役社長に就任。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
大学で教鞭をとっていた頃、毎年最初の講義の冒頭で、「私の講義をそのまま信じるな」というメッセージを受講生に伝えることから始めていた。その意図するところは、疑うことをしないと思考が深まらず、理解が深まらないという私自身の考えにある。時には悪戯心から、短時間ではあるが、誰でも気づきそうな真っ赤な嘘の内容で講義をしてみたが、誰もその内容を疑いもせず聞き入っていた。38年間に渡る大学での講義経験を通じて、年を追うにつれて、学生が自ら考えることをしない傾向が強まってきたと感じていた。表向きは真面目に講義を聞き、板書したことはすべてノートに取るという学生が大半だったが、期末テストの採点をするたびに、暗記の努力の跡は垣間見られるものの、その場で考えるという問題には殆どの学生が答えられないという結果を思い知らされた。
親交のあるエンジニアの方々と、最近の情報技術トレンドについてお話をさせていただいていると、これとよく似た傾向が透けてみえてくる。最近流行りの言葉はご存じだが、基礎的な知識が足りず、一緒に議論を深めるまでには至らない。とくに、新しい抽象的な言葉が次々と生まれては消えていく昨今は、このような傾向が益々強まっているような気がしてならない。
本屋の店頭で情報技術関連書籍の棚の前に立てば、基礎理論的なものは片隅に追いやられ、情報技術製品やクラウドサービスの解説書ばかりが目につく。それに輪をかけて、情報技術企業が自社製品の広報活動の一環として自ら都合のよい用語をつくり、自己都合に合わせた解釈を流布することが日常的に行われている。情報技術専門紙は、それを誰にも読みやすく要約し、新たな技術トレンドとして紹介し、さらに、エバンジェリストと称する輩が新しい技術概念へと技術者たちを扇動する。
シンクライアントという技術にかかわって20年ほどになるが、性能や品質は間違いなく大幅に向上したものの、その基礎をなす技術概念や実装技術の本質に大きな変化はみられない。それにもかかわらず、機能補完的な技術を付加し、種々の仮想化技術を組み合わせるたびに、名を変え、装いを変え、純粋無垢な技術者たちを惑わす策謀が繰り返されている。技術の本質を見抜く眼力をもつには、雑多な意味解釈を疑うことこそ肝要である。
一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。