毎年3月上旬米国のテキサス州オースティンがお祭り騒ぎになる。もともと音楽の祭典だったSxSSW(サウスバイサウスウエスト)だが、2007年にTwitterが出展し話題になり、それ以降、祭典は大きくなり混とんとしていた会場も普通の展示会になりつつある。
私も6年前と今年出展したが、6年間の変化を痛感した。6年前のトレードショー会場は体育館に段ボールで囲ったような手づくり感のあるものだった。街のあちこちでは、テーブルを出してプロダクトを紹介しているベンチャー企業が騒がしかった。レストランでは、小さなミートアップが多数繰り広げられていた。ほどよく小さなコミュニティが出会いを濃くしてくれたし、その出会いが驚くほどの機会になることもあった。そんな町中には可能性が溢れていて、目にみえない刺激を与えてくれたように思う。
6年ぶりに参加してみて驚いたのは、トレードショーがほかの都市のカンファレンスと変わらず、天井からパネルがぶら下がり、そこには大企業のロゴが目立ったことだ。タクシーを予約しても、来なくてイライラすることもなく、UberやLyftといったタクシーサービスがスマートフォンアプリから10分以上待たせることもなくやってくる。
日本からの参加者も200人程だったのが、今年は2000人近くが参加したという。知名度が上がりとても参加しやすくなった。しかし、かつての熱狂は感じなくなった。音楽定額サービスのSpotifyが参加を取りやめたことも、一つの節目を迎えたことを示しているのかもしれない。
もちろんLyftのなかでの偶然の出会いが楽しみだし、ミートアップも他のカンファレンスと比べると多く開催されているので十分楽しい。音楽や映画の祭典が開催されているから、テクノロジーのカンファレンスとは一味違うことも変わらない。しかし、小さなコミュニティから生まれる新しいイノベーションは、ここからはもう生まれないのかもしれない。
昨今、コミュニケーションは全体最適が通用しなくなってきている。価値観が多様化し多数決がうまく作用しなくなっているのだ。逆に小さなコミュニティのなかで、価値が醸成される。そんななか、全体最適に向かう祭典は時代に逆行しているのかもしれない。次はどこから新しいイノベーションが生まれてくるのか、探してみたい。
事業構想大学院大学 特任教授 渡邊信彦
略歴
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)

1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。