ヤフーの「信用スコア」など、信用スコアという新しい評価サービスが本格化しようとしている。中国ではすでに「芝麻信用」というサービスが定着し、個人の信用をランク付けして、そのランクによってホテルの予約、携帯電話のレンタル料金などで優遇ポイントが設けられている。金融的に信用度が高ければ貸し倒れのリスクが低く金利を低くしても利益につながると考えられるし、レンタルやシェアリングサービスの利用態度(支払いや返却に対する信頼度)が良ければ、保証は必要ないとの判断である。
そもそも信用度が低いマーケットだった中国で一つの評価軸として浸透したもので、日本では数値化の表面化は、あまり意味がないように思う。日本は金融取引できちんとした信用スコアが存在するし、そこは大きな価値を生むものではない。だがヤフーの信用スコアなどが、個人の趣味嗜好や日常の行動を基にスコアリングするとなると話は別だ。Netflixオリジナルドラマのブラックミラーシーズン3の「信用化社会」で描かれたように、信用スコアによって生活が大きく分断されることになりかねない。ランクによってガススタンドに並ぶ列が違ったり、ランクが低いとドアの開かないラウンジしか使えなかったり、就職試験さえ受けられないなど、人々が信用ランクを評価軸として生活の判断に使われ始めると、それは恐ろしい結果を生むことも考えられる。
一方、評価軸は時代によって変わってきている。20年前、フェイスブックの評価軸「いいね」は存在しなかった。だからマスメディアが世論を大きく左右した。ところが現在は誰が情報を発信したかではなく、誰が評価しそれを伝えたのか、つまりインフルエンサーが広告の手法として大きくなってきている。「いいね」という評価をもらいたいがために、いい写真を撮る、いい写真を撮るために旅行する。旅行にも新しい目的が登場しているのだ。
信用スコアが金融取引だけでなく、ネット上の振る舞いや態度、人々からの「いいね」の評価数などから算出され、その評価が流通するものとなったとき、行動の理由まで変化してしまうかもしれない。逆にそれを得たいがために、親切になり穏やかに暮らせる社会がつくられるのかもしれない。ただ、そのつくられた「いいね」社会は長く続かない気がする。
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
略歴

渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。