国のIT政策は、情報サービスの分野だけにとどまらず、医療・介護や自動車・交通、流通・小売りと幅広い業種業態に及んでいる。本連載では、国がさまざまな分野で“こうあるべき”と掲げる理想と現実との壁がどこにあり、どうしたらその壁を乗り越えられるのかを考える。(取材・文/安藤章司)
連載の第1回目は、経済産業省の「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」を取り上げる。昨年9月に発表されて以降、情報サービス業界を中心に大きな話題になった。経産省では「DX実現」に向けたシナリオをより充実させるため、この8月をめどに「DX推進指標」を公開する予定だ。
「DX推進指標」では、経営のコミットメントやビジョン、DXを推進する仕組み、事業への落とし込みなどの大分類の下に、中分類、小分類の指標があり、それぞれの項目のチェックリストを作成。企業経営者が自社のDX推進状況に照らし合わせてチェックリストを確認し、どの部分が手薄になっているのかを確認できるようにする。
経産省では、DX推進指標やそのチェックリストをベースに集計を行い、日本の企業のDX推進の状況を速報値として「今年11月をめどに公開したい」(和泉憲明・情報産業課ソフトウェア産業戦略企画官)としている。DX推進指標の進捗を迅速に公開することで、2020年度に向けた経営計画に役立ててもらうことを念頭に置くとともに、来年度の早いタイミングで諸外国との比較などを加味した「DXレポート~第二弾(仮称)」の公開を目指していく。
DXレポートで描く「DX実現シナリオ」では、DX実現の経営判断を20年度までに行い、21~25年までの5年間をDXファーストでシステムを刷新する“集中期間”と位置付けている。これによって、IT予算の8割を占めると言われている既存システムの維持費を6割までに押さえて、4割を売り上げや利益に直結する価値創造の領域に投資できる構造へと変革。産業を活性化させ、国際競争力の向上につなげる。
しかし、DX推進で重要な役割を果たす情報サービス業の中には、DXレポートの総論は賛同しても、各論になると認識のズレがあることがうかがえる。DXレポートは既存システムの一部を「技術的負債(Technical debt)」としているのに対して、情報サービス業からは「日本の高いサービス水準を維持し、安定稼働を支える重要な部分」との反発も少なからずある。次回は、こうした“認識のズレ”をレポートする。(つづく)