キャッシュレスの収益モデルは、「手数料型」と「データ活用型」の大きく二つに分けられる。前者は、クレジットカードや交通系ICカードなど従来からあるカード決済系、後者は新興のスマートフォン決済系のグループである。(取材・文/安藤章司)
手数料型はすでに定着しているため、いまさら国が支援するまでもないが、データ活用型は米国や中国で大きくシェアを伸ばしている新領域。経済産業省の「キャッシュレス・ビジョン」でも、中国がキャッシュレスを起点に新しいビジネスモデルを構築し、グローバルなデジタルプラットフォーマーとしての存在感を高めていると分析している。
経済産業省の小暮千賀明係長
キャッシュレスは、実店舗やネット店舗などの小売業と消費者、決済サービス事業者の3者がメリットを享受して、初めて成り立つ。カード決済は小売りから手数料を徴収するモデルであり、僅かでも粗利を増やそうと血の滲むような努力している小売りの負担は大きい。「現金しか対応しない」とする小売りが、いまだに少なくないのはこうした理由が背景にある。
一方、QRコードなどを画面に表示するスマートフォン決済系は、個人の売買データを活用して価値を生み出すことを重視するモデルであるため、小売りから徴収する手数料は非常に低いか、ゼロにすることも理論的には可能とされている。決済を支えるシステムも、スマートフォンとインターネットの既存のインフラを使うことで、従来型の重厚長大な決済システムに比べれば、はるかに安価に構築できるコストメリットも大きい。
しかし、現時点ではスマートフォン決済のサービスは群雄割拠の状態で、100億円還元キャンペーンに象徴されるような投資が先行している状態。主要プレーヤーはまず、まとまったシェアをとり、より多くのデータを手にする段階で、将来見込まれる価値創出を有利に進める戦略を展開している。
「キャッシュレス・ビジョン」の制作に携わった経済産業省の小暮千賀明・消費・流通政策課(併)物流企画室係長は「海外の動向を見るとデータを活用することで、新しいサービスや価値を生み出している。国内でもそうしたサービスや価値を創出できるようにすることが期待される」と話す。
データ活用による収益モデルの道が開ければ、小売りの大きな負担になっている決済手数料への依存度が下がる。手数料が低廉になればキャッシュレスを導入する小売りも増え、直近で20%余りの国内キャッシュレスの普及率も、国が目指す2025年に40%の目標を前倒し、将来的には80%に近づける可能性が高まる。(つづく)