2040年を念頭に未来の医療福祉分野の在り方を検討する「未来イノベーションワーキング・グループ」では、先端技術と医療福祉の融合を目指している。少子高齢化が一段と進む20年後は、人口の大都市への集中が一段と進む見込み。「最寄りの中核病院までクルマで片道3時間かかる」ことも考えらる。何の施策も打たなければ今の医療水準を維持することは難しくなるため、遠隔医療の体制整備や、ウェアラブル端末などによる日常の健康データを取得する仕組みの早期導入が求められる。(取材・文/安藤章司)
ITを中心とした先端技術を駆使することを前提としているため、未来イノベーションWGは、関連産業の振興を担う経済産業省と、医療福祉の所管官庁である厚生労働省が合同で推進している。40年に70歳前後になる人は、今は50歳前後。十分にデジタルをこなしている世代だ。ある程度、デジタルに馴染んだ世代であれば、「端末の形状や操作方法が多少変わったとしても十分に対応できる」(経済産業省の佐々木稔・商務・サービスグループヘルスケア産業課課長補佐)と、ITを使うことを前提としても問題は少ないと見る。むしろ課題となるのは「健康無関心層」の存在。いくら技術革新が進んでも、健康にあまり関心がなければ効果は期待しにくい。
経済産業省
佐々木 稔
課長補佐
未来イノベーションWGでは、医師や看護師、介護施設、自治体、そして民間企業のPHR(個人向け健康記録)サービス、ウェアラブル端末などのデバイスメーカー、各種の健康増進サービス事業者などがネットワークでつながることを想定。文字通り、地域の官民が一体となって高齢者が共に助け合うネットワークを構築することを目指す。ただ、本人が健康に無関心であれば、身近にネットワークがあっても利用するに至らないことが考えられる。この課題を解決するには「健康無関心層の“心の可視化”が欠かせない」(佐々木課長補佐)と見ている。
「心の可視化」とは、健康に無関心な人に対して、どのような働きかけをすれば健康に興味を持ってくれるのかを明らかにすることを指している。例えば、今40~50歳の中高年でも、若者に混じってスマートフォンでゲームを楽しんでいる姿が電車の中でよく見られる。例えば、血圧を図ると1回スマホゲーのガチャが引けて、1カ月も続ければ1度くらい超レアアイテムが出るといった「その人の趣味嗜好に合わせた動機づけが有効だと」予測する。健康に関心をもってくれて、ネットワークに健康データを提供してくれるようになれば、生活習慣病などが重症化する前に手を打ちやすくなり、結果的に20年後の“医療福祉難民”を防ぐことにつながる。(つづく)