今ソウルにいる。ここ2~3年ほどお付き合いを続けてきた現地IT企業の経営者たちと個別に面談し、それぞれのソリューションを日本市場で展開するための市場アプローチ、販売モデル、技術者トレーニング、サポート体制などについて相互の準備状況を再確認するためだ。
彼らに共通するのは海外での事業展開に積極的なことだが、これには韓国の市場規模が限られているため、企業規模にかかわらず海外展開を目指さざるを得ないという事情がある。実際、ミーティング中の会話にもベトナム、カンボジア、マレーシアといった東南アジアの国名が自然に出てくる。友人のビジネスコンサルタントによれば、韓国企業の海外進出を支援する助成金制度があり、それを利用して海外での展示会への参加や製品紹介、セミナーの開催などの支援を行うことを彼自身が生業としている。
そういえば近頃、私の知る日本の小規模IT企業の経営者たちもまた積極的に海外を飛び回っている。90年代は新しいIT技術を探して米国や欧州へというのが定番であったが、今や東南アジアや中近東、果てはアフリカまで事業機会を探しに飛び回っている知己も少なくない。それにとどまらず、20年以上前からベトナムに進出して地元に会社を設立し、自らの事業拡大を図るとともに日越の企業経営者たちの関係構築やビジネス開拓支援に励んでいる人もいる。日本国内での事業機会の縮小に懸念を抱く経営者が増えているということなのだろうか?
知己の経営者たちからさまざまな国名を聞くたび、ここ十数年の間に起きた経営者の意識の変化に隔世の思いがする。中小企業の経営者にとって、日韓とも国境をまたいでビジネスを展開することが当たり前の時代になった。
そうした中、私自身の興味は、これまでと変わらず国内IT市場にある。さまざまな分野で情報通信技術のレガシー資産が幾層にも累積した中で、社会基盤のデジタル化の遅れは明らかである。そこに「働き方改革」に象徴されるように、ビジネス環境の構造的、組織的変革が急がれる。IT技術も見方を変えれば、新たな事業機会が見えてくる。
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
略歴

松田 利夫(まつだ としお)
1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。