視点

サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎

2020/07/17 09:00

週刊BCN 2020年07月13日vol.1833掲載

 緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだ感染リスクがゼロになったわけではなく、効果的な治療法も見いだせない中、オンライン会議の利用がさまざまな場面で増えている。

 教育の現場、社内での会議、企業間での会議、移住相談会、企業説明会、そしてオンライン飲み会。これまで対面で行われていたことを代替するツールとしてオンライン会議が使われているのだ。

 ツールというものは目的を持って開発されているので、オンライン会議のシステムも会議を行うために設計され、機能が実装されている。画面を共有する、主催者が全体をコントロールする、話者を特定して音声を拾う、全体会と分科会の組み合わせができるなど良く考えられている。

 では、オンライン会議のシステムを使えば対面の行為がすべてオンラインに置き換えられるかというと、そうではない。

 例えば、大学の講義では授業を配信する、学生への意見を求める、学生の質問を受ける、学生同士のグループワークをさせる、録画して後で視聴するという機能は実現できる。しかし、出席の確認や授業内での小テスト、学内の成績評価システムへのリンクなどは難しい。

 移住相談会でも現地側の説明を受けたり、移住希望者の質問を受けたりはできるが、肝心の現地の雰囲気はオンラインでは伝わらない。

 私が理事を務めているNPO法人の離島経済新聞社では、メンバーが全国に散らばっているのでテレワーク組織である。この形態での組織運営を継続するためにさまざまな試行錯誤を繰り返しているが、現在では業務の伝達は全てslackに統一。データはGoogle Driveに格納し会計はfreee。毎日1時間のオンラインミーティング、年に1回の2泊3日の合宿、年に数回の飲み会を基本にしている。

 Slackには「給湯室」というチャンネルを作り、業務以外のアレコレを自由に書く。オンラインミーティングでは、必ず一言身の周りのことを話す。言語化された業務内容のやり取りだけでは欠ける組織運営に重要な人間同士の触れ合いをオンライン会議で補っているのだ。

 大学では対面授業も徐々に再開、オフィスでも出勤の割合が増えてきたようだ。オンライン会議で何ができて何ができなかったかを考えることは、これからの業務設計に重要なヒントを得るチャンスでもある。
 
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市産業創出プロデューサー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
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