視点

アジアビジネス探索者 増田辰弘

2020/12/25 09:00

週刊BCN 2020年12月21日vol.1855掲載

 個人的なことで恐縮だが、私が主催するアジアビジネス探索セミナーの事務局長は超デジタル人間で、私の活動でも事細かに指導を受けている。デジタル的思考というのは普通の日本人には相当難しいし、日本という社会がデジタル化に大きく遅れていることにも改めて気がついた。

 日本株式会社の正統派企業とも言えるパナソニックはこの30年間、年間売上高約8兆円も株式の時価総額約2.6兆円もほとんど変わっていない。これは同社がやる気をなくしていたわけではない。優秀な人材が入社し、優れた経営者が会社を運営してきた結果なのだ。そして、これは、パナソニックだけではなく多くの正統派企業がそうであり、日本経済自体がそうなのだ。

 現在、GAFAにマイクロソフトを加えた5社の時価総額は700兆円を超える。一方、東証一部の上場企業のすべてを合わせた時価総額が約650兆円程度であるから、勝負になどならない。これも日本企業が手を抜いてさぼってきたわけではない。30年間、官民上げて頑張った結果なのだ。

 これは、日本人の能力が欠けているわけではない。若干、人材の配置を間違えていたのだ。例えば、行政のデジタル化を進めるグラファー(本社・東京都渋谷区)の石井大地CEOは、大学では医学部に入り医師を目指すが、途中で進路を変更して小説家になり、その後、現在のソフト会社を創業した。同社の役員陣も野武士を集めたようでまさに多彩。日本株式会社の傍流派企業ともいえるが、今や世界的に見ると、成長企業の姿はこのタイプが主流である。

 何千年もかけて培ってきた日本の島国型農耕文化は、やすやすとは変われない。A社は優れた開発者に年俸2000万円で契約する。B社は年功序列、定期昇給を止めて成果主義年俸とする。多くの日本企業が農耕文化なりにデジタル的思考法を持たねばと努力している。

 しかしながら、どうにもちぐはぐ感は否めない。それは欧米企業の現象面を捉えて追っているからだ。これでは経営者が使うのに便利な正統派の開発者は育つかも知れないが、いま日本企業に必要なのはデジタル的思考の傍流派の経営者であり、開発者である。そのためには会社の根元を変えねばならない。残念ながら根元を変えて成長企業に変身した会社は少ない。日本経済も日本企業も、この長きトンネルはしばらく続きそうである。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。2001年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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