今回のコロナ対応を巡り、ある中国人のコメントに説得力を覚える。「私は15年くらい日本に住んでいるが、コロナ対応で10年前の福島原発事故を思い出す。日本は普段は大変暮らしやすい所だが、いったん危機になると政府は途端に機能不全に陥る。一方、中国は普段はいろいろと問題はあるが、危機に直面すると政府がすごい力を発揮する」と語る。

 昨年1月、武漢で感染者の多くが入院できない問題が発生。そのとき中国政府は、わずか10日間で野戦病院を建設し数千人を収容した。日本が数万人の自宅療養者を抱え込んでいるのに比べると、これは大変な差である。

 こういうと、そもそも日本と中国では政治体制が違う、法制度が整備されていないなど、できない理由を述べる向きはあるが、そうではない。日本政府も日本企業も日本人も多くが保守主義に陥り、普段はきちんとできているが、危機に遭遇するとパニックとなり機能不全に陥り易い体質になってしまっているのだ。ダメージコントロールができていないのである。

 本来、日本人はこんな機能不全体質ではない。日露戦争当時、児玉源太郎(満州軍総参謀長)はいつロシアとの和平の交渉を始めるかのタイミングを常に探っていた。後藤新平(臨時陸軍検疫部事務官長)は、日清戦争の帰還兵約20万人に空前の大規模な検疫場を整備し国内へのコレラ、腸チフス、赤痢などの蔓延を防いだ。

 今日の問題は、この危機管理のDNAを発揮できない状況にあることだ。考えてみれば、先進国で30年間、日本経済だけがゼロ成長ということは経済政策でも長期間機能不全ということになる。どうしてこうなってしまったのか。今後どうしたらこの機能不全体質は改善できるのか。

 キーワードはいくつかあるが、まずどんな難題でもやり抜くぞという児玉、後藤のような人材の出現である。現下の課題であるコロナ対策。政治家にも、政府の職員にも、このような人材は残念ながら見当たらない。

 もう一つは説得力である。少なくとも、郵政民営化で小泉純一郎元首相にはそれがあった。マスコミ、ネット、SNSと今ほど表現する場に恵まれたことはない。が、今ほど国民を納得させるのが難しい時代もない。国民を納得させる表現力、これがもう一つの要件である。
 
 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。2001年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年、NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。