視点

次世代「UX」競争、想像できない未来が訪れる

2021/09/22 09:00

週刊BCN 2021年09月20日vol.1891掲載

 現実世界と仮想世界を融合する技術の「XR」の覇権争いで、いよいよ大手が動き出した。

 米フェイスブックは全社員の2割をXR事業に配置転換し5000億円規模の投資を行うと発表し、「TikTok」を運営する中国のバイトダンスはヘッドマウントディスプレイ製造のピコテクノロジーを850億円で買収。「Snap chat」を運営する米スナップはAR機能を強化し2022年の日本支社の設立を表明した。24年には米アップルのARグラス発売が噂され、スマホの次はXRという方向が見えてきた。

 これらの動きは単にXRというジャンルのツールが普及するという話ではない。これだけの資金とパワーが投下される以上、ゲームやエンタメで終わる話ではない。ビジネス全般に大きな影響を与えることはほぼ間違いない。ではなぜ大きな影響があるのか。

 それは今のコンピューターのユーザーインターフェースがそもそも人間本来の機能をフル活用できるものではないからである。立体に見えるものを四角い平面の表示装置でみること、キーボードという入力装置、これら入出力装置は過渡期のものであり、人間本来の機能に近い装置になっていくのが必然である。そういう意味で三次元入力と三次元出力に変化していくべきである。

 三次元の入力装置、表示装置が浸透していくということは、OSにあたる部分が大きく変わるということで、さまざまなユーザーインターフェースが変更を余儀なくされる。空間を表示装置として、音声コマンドが標準になっていく。

 対応しない業態はユーザーのライフスタイルから外されていく。PCからスマホに変化したときも同じことが起きたのを思い出してほしい。多くのプレイヤーが乗り遅れて消えていった。スマホに対応していないとユーザーはサービス利用を検討してくれない。さまざまな業態がシェアリングエコノミーによってビジネスモデルを大きく変え、別業態から進出してきたプレイヤーに覇権を奪われてきた。

 これから起きる「UX」(User Experience)の革命はインターネットによって起きたゲームチェンジと同じくらいの地殻変動を起こすだろう。そんなことは起こらないと多くの人は思うかもしれない。しかし、20年前にスマホが多くのビジネスを変えた今を想像できた人がどれだけいただろうか。きっと20年後、想像できない未来が訪れているであろう。 

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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