視点

変わる日本企業の魅力度

2022/03/02 09:00

週刊BCN 2022年02月28日vol.1912掲載

 新型コロナ禍は、ネット通販やテレワークやオンライン会議などの社会変化のスピードを速めた。中でも一番影響を受けたのが流通業、サービス業だ。

 舞台をアジアに移すと、それがより鮮明化する。日系企業を代表する百貨店の伊勢丹がシンガポール、バンコクの店を閉店。バンコクでは東急百貨店も店をたたんだ。現在、アジアの日系百貨店は33店舗、最盛期から4割も減っている。前方には成長する現地の百貨店などの流通業、後方にはネット通販業と、前後から挟み撃ちに合っているからだ。

 では、好調な日系企業はどこかといえば、ドン・キホーテやダイソーなどの新流通業である。ドン・キホーテは昨年から、台北とマレーシアにそれぞれ2店舗を開店。シンガポール、香港、タイなどを中心に28店舗を展開している。

 ドン・キホーテはアジア展開で、日本とはやり方も大きく変えている。「DON DON DONKI(ドンドンドンキー)」(アジアでの店名)は、ジャパンブランド・スペシャリティストアと称して商品の半分は弁当、総菜、鮮魚、野菜、日本酒などの日本の食品を売っている。「今日は北海道のホタテ特売日」などとイベントを打ちながら、実に巧みに展開している。

 中堅企業もがんばっている。タイだと横浜のローカルスーパーマーケット「フジスーパー」が、バンコク市内で4店舗を構え好調だ。この店は、米、鮮魚、果物、日本酒などが日本の店とまったく同じような品揃えと売り方を目玉にしている。30年前に進出したときはタイ駐在の日本人向けであったが、現在の顧客の半分は日本の食品が大好きなタイの人たちが占める。

 これは日本料理店も同様で、五つ星ホテルに進出した有名企業の渋く落ち着いた店より、ダウンタウンの日本人が経営する高級日本料理店のほうが好調だ。こちらは渋さを少し抑えて「雪まつり」や「桜まつり」など折々に日本を演出している。ここも顧客の半分は日本料理が大好きな現地の人たちだ。

 アジア各国が成長し豊かになるにつれて、現地のニーズは次第に日本企業、日本人にしかできない商品やサービスを求め出してきた。このフィルターにかかるものだけが生き残る。これからは日本企業の視点だけでなく、この現地顧客の視点から物事を見なければならない。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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