視点

ファイル共有ソフト「Winny」の功罪

2023/04/12 09:00

週刊BCN 2023年04月10日vol.1964掲載

 映画「Winny」を観てきた。2000年代に音楽や映像など無数の著作権侵害を引き起こすことになったファイル共有ソフト「Winny」を開発した金子勇氏が、著作権侵害を幇助したとして起訴され裁判で争った実話を元にした映画である。映画としては、小道具までこだわっていて面白かった。

 ただ、Winnyは著作権の新しいあり方を模索したプログラムだったという視点で描かれ、主張は片面的であると感じた。そうした構想があったとしても、Winnyを悪用して音楽、映像、ゲームなどのあらゆるコンテンツが無料で共有されてしまったことは歴史的事実だ。

 映画で描かれた金子氏の裁判はともかく、Winnyが蔓延させた著作権侵害に対して、私たちは対策に奔走した。コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)など著作権者団体と、Winnyなどのファイル共有ソフトによって回線が逼迫することになった通信事業者の団体などが、ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会(CCIF)を設立。10年から利用者に対する注意喚起メールを送付する活動を行ってきた。そのうちWinnyに対しては4万5000通を超えており、他のファイル共有ソフトを合わせると12万通弱に達した。これだけのことをこつこつと実施。完全にユーザーがいなくなったわけではないが、権利者と通信事業者が協力できる精一杯のことをやり成果を上げてきた。

 TwitterでWinnyと検索すると、映画への評価に交じり、Winnyそのものに対する今の冷ややかな見方が分かる。Winnyは包丁であって使う人が殺人に使ったのだというレトリックが当時あったが、あれは当初から盗用を前提に開発された拳銃だという人もいる。Winnyや開発者を美化するのは間違いだという意見もある。こうした冷静な見方や、Winnyの実態や歴史に対する批判的な見解が広がっているのも、私たちの地道な活動の成果かもしれないと思う。

 技術は大事だ。新しい技術が今後も出てくるだろう。でも、Winnyのように著作権侵害対策がなされない状態のまま登場すれば、開発者以上のエネルギーをかけて、権利者の権利を守っていくしかない。著作権だけでなく、個人情報や人権におよぶ場合もあるだろう。ACCSは、安全・安心なネット社会のための活動を行っていく団体なのだ。ぜひ、業界を挙げて支援していただきたい。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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