自社の成長に力を注ぐとともに、IT業界の発展に貢献してきた経営者たち。
役割を終え、退任の時を迎えた彼らは、どのような思いを抱いているのだろうか。
任期中の出来事などを振り返ってもらい、これまでに描いてきた軌跡をたどる。
ピー・シー・エー(PCA)の社長などを務めた水谷学氏が、6月21日付で取締役相談役を退任した。会社の黎明期から事業に関わり、40年以上、役割を変えながらさまざまな課題の解決に取り組んできた。成功も、失敗も、今となっては「いい思い出」。これまで歩んできた長い道のりを振り返り、「PCAでの仕事は社会人としての人生そのもの」と安堵の表情を浮かべた。
(取材・文/齋藤秀平)
先輩との縁で生まれたつながり
──PCAとのつながりについて教えてください。
PCAに移籍したのは1989年ですが、実はPCAが設立した80年からつながりがありました。大学を卒業したのが80年3月で、その年の12月にはアルバイトとしてプログラムをつくっていました。アイデアを出して、PCAで実現して、売り上げを伸ばしてきたので、PCAでの仕事は社会人としての人生そのものです。
ピー・シー・エー 水谷 学 前取締役相談役
──どのようなことがきっかけになったのでしょうか。
若手会計士でつくる任意団体・清風会の集まりで、OBである川島さん(=PCA創業者の故川島正夫氏)と会った際、秋葉原(東京)で買ったPCでプログラムをつくっていると、当時の趣味を伝えたら、話が弾んで「じゃあ遊びにおいでよ」と言われたことがきっかけです。川島さんは会計士の大先輩であり、大学の先輩でもあります。初めて会ったのは大学を卒業するときです。公認会計士試験の合格者として記念品をもらったのですが、プレゼンターが川島さんでした。その後も事あるごとに会っていましたから、縁があったのでしょうね。
──40年以上にわたるPCAでの生活が区切りを迎えました。今のお気持ちはいかがですか。
60歳から5年間、相談役として業界活動を中心に活動し、社内では経営陣らをサポートするようなかたちで関わってきました。コンピューターの業界は、常に新しい発明や革新があるので、終わりはありません。まだやってみたいことはありますが、それは次の世代に託したいですね。今の気持ちとしては、やり切ったとの感覚はなく、第二の人生に向けて卒業のときを迎えたといった感じです。
大変なこともやりがいがあった
──相談役の前はCTO(最高技術責任者)や社長などを歴任しました。多くの出来事の中で、どのようなことが最も印象に残っていますか。
直近では、やはり社長を務めていたときに提供を始めたクラウドサービスですね。ソフトウェアを売って、インストールしてもらって、動かしていくような創業時からのビジネスモデルは限界になっています。どこの会社も、簡単に使えて、便益が受けられればいいわけです。管理はベンダーが担い、お客様は簡単に使えるサービスを実現したのは大きかったです。提供を開始してから15年がたっていますが、これができていなかったら、今頃、PCAの売り上げは落ちていたでしょう。
──今でこそクラウドは当たり前の選択肢になっていますが、アイデアとしてはいつ頃からあったのでしょうか。
80年代後半頃から、今で言うクラウドの仕組みができたら、きっと中小企業の皆さんは喜んでくれるのではないかとずっと思っていました。次に向けた新しいステージに上がることはできましたが、全てが順調というわけではありません。お客様への導入比率は、まだオンプレミスのほうが高い状況ですし。とはいえ、クラウドのビジネスは伸びる余地が十分にあるので、今後の動向に期待しています。
──苦労したことについてはどのように考えていますか。
ずっとやりたいと思っていたクラウドも、技術やコストの面で実現するのは簡単ではありませんでした。クラウドだけでなく、上場に合わせた社内システムの開発や、「OS/2」版のソフトが全然売れなかったことなど、苦労したことはたくさんありました。ただ、大変なこともやりがいがあり、振り返ってみると、全体として仕事は楽しかったです。成功したことも、失敗したことも、いい思い出になっています。
新しいシステムの開発に取り組みたい
──退任後はどのようなことに取り組んでいきますか。
AIを組み込んだ新しいシステムの開発に取り組みたいです。AIに業務を任せるためには、今のつくり方ではだめで、システムの設計自体、発想を変えて直していかないといけません。こういうふうにすれば、AIの恩恵を受けられるシステムになるだろうとのアイデアはありますが、それはまだ言わないほうがいいでしょうね。もう前期高齢者なので、どこまで仕事ができるか不安な気持ちは当然ありますが、思っている以上にまだできそうな感じがします。
──公式戦にも出場しているボウリングには一層、力を入れていくのでしょうか。
スケジュールの都合上、毎週火曜のリーグ戦への出場はしばらく控えようと思っていますが、全体としてはボウリングに取り組む時間は増えると思っています。自宅の近くのボウリング場にロッカーを借りて、そこにボールを置いているので、少し歩いて行けばすぐにプレイできます。今までは平日夜か土日しかできませんでしたが、退任後は、これまでにできなかった平日昼間のボウリングができるので、とても楽しみです。
──最後にパートナーや社員、ユーザーへのメッセージをお願いします。
パートナーの皆さんには本当にお世話になりました。従業員数人の会社からここまで規模が大きくなり、東証プライム市場にいられるのは、パートナーの皆さんの支援のおかげです。また、社員に対しても感謝の気持ちしかありません。社員の頑張りがあったからこそ、ここまでやってこられましたから。パートナーや社員、ユーザーを含めて、PCAに関わっていただいた全ての人にありがとうございましたと伝えたいです。