政府共通のクラウドサービスの利用環境「ガバメントクラウド」による自治体システムの標準化・共通化に向けた動きが加速している。政府が掲げる移行期限の2025年度末まであと3年。全国約1700自治体のリフト&シフト実現に向け、デリバリー人材の圧倒的不足などの課題が浮き彫りになる中、プラットフォーマー各社やSIerはどう動いているのか。号砲が鳴ったガバメントクラウド。プレイヤーたちが描く青写真に迫る。第3回は日本オラクルの取り組みを紹介する。
(藤岡 堯)
にじむ危機感
日本オラクルは2月、全国7都市で、自治体システムのモダナイズに関わるパートナー企業などを対象に、ガバメントクラウドや自治体DX支援、「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)のスキル取得などを目的としたトレーニングをキャラバン形式で実施した。全国のパートナーやオラクルに関心のある企業と直接対話し、オラクルのソリューションへの理解やオラクルとのビジネスの深化につなげる狙いだった。
本多充・執行役員(左)と細野彰則・部長
同社によると、7会場で計135社600人が参加する盛況ぶりだった。執行役員の本多充・クラウド事業統括・公共・社会基盤営業統括は「次の企画を立てないといけない」と話し、追加開催を検討しているという。また、政府・自治体領域に関するOCIの情報を集約したランディングページを制作し、パートナーや自治体職員に対する情報発信にも注力している。
対話から見えたパートナー側の熱意は、危機感の表れのようにも映る。これまで自治体と関わりを深めていたSIerなどにとって、ガバメントクラウドは、ハードウェアの導入からSI業務、ソフトウェアを含めた運用・保守で成り立っていた自治体ビジネスを大きく変えるかもしれない。クラウドビジネスに本格的に乗り出すか否か。本多執行役員は「ここ(での選択)を間違えると、今までのビジネスモデルが変わり、シェアを取られる可能性がある」と指摘する。
システム標準化の対象は基幹系の20業務だが、将来的には周辺業務のクラウド移行も進むとみられる。民間企業が相手ならば、提案の仕方によってオンプレミスを維持し続けることはありうるが、国の方針が「クラウド・バイ・デフォルト」である以上、基礎自治体においてもクラウド移行の流れは加速するだろう。
クラウドビジネスに踏み切れなかったパートナーにとって、ガバメントクラウドは否が応でもクラウドと向き合う契機となるはずであり、「なんとか一歩目を踏み出してもらいたい」(本多執行役員)というのは、デリバリー体制の強化を目指すクラウドベンダー各社に共通する思いと言える。
存在感強まるOCI
本多執行役員はパートナーと対話する中で、ガバメントクラウドにおけるOCIの存在感の強まりを感じているという。公共向けビジネスで豊富な実績を有するパッケージベンダーのジーシーシー、RKKCSの2社との連携強化を発表したことが追い風となっているようだ。
規模の大きい自治体であれば、標準化対象の業務ごとにパッケージアプリケーションを選別し、その結果としてマルチクラウド体制となることはありうるが、中小規模ではオールインワンで構築するケースが増えてくると考えられる。シェアの大きい基幹系パッケージの基盤にOCIが採用されたことが自治体のクラウドサービス選定に及ぼす影響は小さくない。
これまでフルスクラッチのシステムを利用していた自治体がクラウド移行を機にパッケージに乗り換える動きもあるだろう。細野彰則・クラウド事業統括・デジタル・ガバメント推進部部長は「人口減、職員減の中で、今までは『オーダーメイド』の服を着ていたが、今後は『既製服』に合わせるしかないという意見はある」とする。一方、業務によってはスクラッチにこだわる向きもあり、二極化の傾向がみられるという。場合によっては、スクラッチした既存のシステムをそのままクラウドにリフトだけするケースも想定される。
このほか、主要業務の周辺に位置する各業務のクラウドシフトに向けても、パッケージベンダーとの協業が重要になるとみる。本多執行役員は「周辺業務のシステムについても、(ユーザーに)便利に使ってもらいたいとオラクルは考える。その観点からも提携を深めていければいい」と語る。
コストパフォーマンスで訴求
さらにOCIを訴求するポイントとして、本多執行役員は「圧倒的なコストパフォーマンスがあり、その点では確実にお役に立てる」と訴える。OCIはクラウドサービスとしては後発となったがゆえに、競合と比較して価格面で優位性がある──。これは公共領域に限らず、近年のオラクルが積極的にアピールしている要素だ。
もちろん、オラクルが得意とするデータベース領域での強みも当然としてあるが、そもそも、システム標準化の目標の一つに、情報システムの運用などに関する経費を18年度比で少なくとも3割削減することが掲げられており、コスト削減への期待は大きい。クラウドプラットフォーマー各社が「機能面でできることは大差がない」と口をそろえる中、コストが大きな差別化要素の一つになることは間違いない。
コスト削減はパートナーにとってはビジネスの縮小につながりかねないのは確かだ。ただ「数年前から(クラウドビジネスが)ちりも積もれば定期的な売り上げになる、ということをポジティブに考えている人も出てきている」(本多執行役員)。この意識は今はまだ一部かもしれないが、ガバメントクラウドが多くのSIerらの意識変容を促すきっかけになることへの期待は大きい。