PC市場に大きなうねりが迫っている。2025年10月に控える「Windows 10」のサポート切れや、文部科学省のGIGAスクール構想によって全国で一斉導入された端末の更新による特需が見込まれ、「AI PC」への期待もにわかに高まりつつある。新型コロナ禍における需要拡大からの反動以降、低調が続く市場は新たな局面を迎えるだろうか。第3回はレノボ・ジャパンに市場戦略を聞く。AI PCの機能拡大を見込み高性能半導体を採用した製品を投入するほか、GIGAスクール向けには子どもたちの活用率を高める性能の向上など、使い方に寄り添った製品の提案で販売拡大を目指す。
(取材・文/堀 茜)
働き方の変化に対応するラインアップ
コロナ禍以降のPCに対する需要の変化について、PC・スマートデバイス事業本部企画本部製品企画部の元嶋亮太・マネージャーは「働き方が多様化し、PCに求める体験が大きく変わった」と印象を語る。ハイブリッドワークの拡大に加え、オフィスでフリーアドレスを採用する企業が増加。働く場所が流動的になったことで、PCを持ち運ぶことが大幅に増え可搬性が重視されるようになった。
また、PCにはコラボレーションツールとしての需要が高まった。オンライン会議の実施率は大きく拡大し、カメラや音声の質、常時接続性など体験の快適さが重視され、メモリー容量も大きい製品が選ばれるなど、全体的に求められるスペックが上昇。「企業がPC購入をコストではなく投資と見るようになり、当社の法人向けPCの購入単価は上昇傾向にある」とした。
Windows 10のEOSに伴う買い替え需要について、同社の調査では、顧客の4割が「Windows 11」への移行を始めており、3割が検討段階、残り3割ほどは判断がサポート終了ぎりぎりまでずれ込むとのデータがある。元嶋マネージャーは「リードタイムに半年程度かかることを考えると、2024年内は余裕を持って11に移行ができる最後のタイミングと捉えている」と説明。計画的に検討を進めることをパートナーに推奨している。
元嶋亮太 マネージャー
主にリプレースの対象となるPCは、コロナ禍に入る直前の19年ごろに購入した製品となる。元嶋マネージャーは「コロナ禍と比べて働き方が大きく変わったことを考えると、買い替えによる体験の向上という部分を訴求していきたい」として、顧客の利用状況をパートナーと一緒にヒアリングし、最適な製品を提案する活動を強化している。
ThinkPad X1 Carbon Gen 12
ノートPC「ThinkPad」シリーズは、10製品以上のラインアップをそろえており、それぞれの製品で性能のベースラインを上げている。3月に発表した最新製品「ThinkPad X1 Carbon Gen 12」は、米Intel(インテル)のAI PC対応半導体「Core Ultra」を搭載するフラッグシップモデルで、ハイブリッドワークに最適化したバランスの良さを特徴としてアピールする。
「AI機能を活用できるアプリケーションが24年後半から25年にかけて増えることが想定されており、NPU搭載のPCは需要が高まる」(元嶋マネージャー)との見通しから、Windows 10のEOSは、AI機能をフル活用できるPCを提案するタイミングと一致するとみる。米Microsoft(マイクロソフト)が提唱する、AI処理に最適化した製品ブランド「Copilot+PC」に準拠する新製品の発売も8月に予定しており、「PCを主語とするのではなく、使うアプリケーションを主語として最適な製品を選んでいただきたい」との考え方に基づき、パートナーと一緒に顧客に訴求していく考えだ。
教育現場での活用率向上を支援
GIGAスクール端末に関してエンタープライズ事業部教育ビジネス開発部の外山竜次・部長は、20年からの最初の導入時は「コロナ禍によって納入が前倒しされ、子どもたちが使うことを想定した堅牢性の確保など、準備が不十分な部分があった」と振り返る。端末の更新にあたっては、壊れにくさ、軽量性といった基本性能に加え、プラスアルファの付加価値を重視する。
外山竜次 部長
文部科学省はガイドラインで端末の活用率の可視化を求めている。「教育分野のトップランナーとの協業も含め、活用率につながるものを準備している。価格以外でも選ばれる製品を提供する」(外山部長)として、ハードウェアとバンドルするサービスもアピールしていきたい考えだ。
リプレースのスケジュールは、24年度の調達は全国の5~8%で始まり、全体の60%ほどは25年度になると見通す。外山部長は「初年度に取ると次につながってくるので、全力で販促活動を行っている」とする。
GIGA端末の調達方式が、前回の自治体単位から今回は都道府県単位に変更になることで、端末数のボリュームが大きくなることから、パートナー1社で対応できない場合は、入札前に複数のパートナーでジョイントベンチャーを組むことも想定している。外山部長は「前回のGIGA端末導入で当社はナンバーワンシェアを取った。調達方式の変更に合わせて戦略を練り、前回を超えるシェアを目指したい」とする。